小川氏「迷惑かけられない」 病床から指揮限界

【連載 小川知事辞職㊤】

 9日、福岡県知事の小川洋は病床から県関係者に電話をかけた。「迷惑はかけられない。辞職を決意しました」

 肺腺がんで九州大病院(福岡市東区)に入院中の小川の病室に8日夕、県議会の実力者で自民党県議の蔵内勇夫ら数人がお見舞いに訪れた。

 小川は治療の長期化が避けられず、22日開会の県議会定例会への出席が困難になっていた。新型コロナウイルス対策が柱となる2021年度当初予算案が審議される、知事として例年以上に重要な議会。自ら提案理由を説明し答弁に立ちたいが、体調が急変すれば審議が止まり、予算成立が大幅に遅れる。

 小川の胸中を察した蔵内は、職務代理者の副知事による提案でも県議会は本格予算として受け止める考えを伝達。「議会のことは心配しなくていい。安心して治療に専念してください」と語り掛けると、小川は「ありがたい」と応じた。

 体調不安のリスクを抱えながら知事を続けるか、次の人に託して確実に予算を県民に届けるか。葛藤の中で一夜を過ごした小川が、出した答えは「辞職」。辞意を伝える電話の声は、涙ぐんでいたという。

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 小川は辞意を固めた後も、それを徹底して伏せた。県や県議会の幹部、支持者らには「回復して復帰できるように頑張ります」との説明で統一した。

 小川は、21年度当初予算案に医療提供体制の確保や感染防止対策に加え、自身が主導した移住や企業の受け皿づくりなど「ポストコロナ」を見据えた地域振興策を盛り込んだ。予算成立の道筋がつく前に辞意が表面化すれば、予算案の正当性が問われ暫定予算への組み替えを求められたり、成立のスケジュールが遅れたりする可能性があった。

 肺に水がたまる症状は改善しない。さまざまな治療を試みるが、回復のめどは立たない。病院側から治療に専念するよう促されることもあった。それでも小川は病床から、電話で県幹部に資料の細かい表現まで指示を出し続けた。幹部は「時折せきはしていたが、仕事の熱意はいつもの知事そのもの」と感じ取った。

 コロナ対策を含む施策を県民に遅れることなく届けなければならない―。病身の小川を支えていたのは、10年間続けた知事としての誇りだった。

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 予算案提出を翌日に控えた21日夜、小川は政財界関係者や支持者ら一人一人に辞意を打ち明けた。「これ以上、周りに迷惑をかけるわけにはいきません」。電話口で、涙が止まらなかった。

 22日午後、小川は、病室に訪れた副知事の服部誠太郎に「わざわざ来てもらって申し訳ない」と言葉をかけ、県議会議長に提出する辞表と県民へのメッセージを託した。

 リクライニングを上げてベッドに座る小川は、以前よりはやつれてはいたが、声はしっかりし普段と変わらない様子だったという。

 病による任期半ばでの辞職に「本当に悔しくて無念」と漏らし県民へのおわびとこれまで支えてもらったお礼を繰り返した。

 副知事として9年間仕えた服部と病室で約20分にわたって語り合った小川は、県内のコロナの発生状況や高止まりしている病床使用率をそらんじ、心配していたという。

 そして、小川は知事として服部に最後の指示を出した。「県政のいささかの混乱も停滞も招いてはならない。職員と力を合わせてしっかり頑張ってほしい」 (敬称略)

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