「いつなら産める?」とは聞けない…夫の思い

復刻連載・産まない?産めない?私の事情<5>

 《今日もまた、話をそらされた。「子どもはいらない」というのは妻の本心だろうか。2人の時間は十分楽しんだと思うけど…》

 福岡県で暮らす貴さん(41)は子どものいない共働き夫婦、いわゆるDINKS(ディンクス、Double Income No Kids)として結婚7年目を迎える。

 妻ともども好きで、週末はよく温泉地を巡る。買い物はいつも2人、互いの友人に会うときも夫婦セットで出掛ける。別行動なのは仕事中くらいで、周りからは「そんなに一緒にいて飽きない?」とあきれられるほど。けんかはしてもセックスレスとは縁がない。

 今の生活には満足している。だからこそ、子どもがいたらもっと楽しそうだ。そこで何度か不妊治療の病院に誘ってみた。そのたびに「子どもはいらない」の一言で片付けられる。かといって、それ以上強く求められない理由もあった。

 妻は結婚前、中絶を経験している。当時は付き合い始めたばかりの上に遠距離恋愛だった。お互いに仕事が忙しく、話し合いの末に決断した。一生忘れられない、でも、いまだに口に出せない出来事だった。

 「身勝手ですが、もし生まれていたら楽しかっただろうな、と想像してしまって」。妻は34歳になった。彼女が自ら望むまで、もう少し待とうと思う。

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 《息子と街を歩くといろんな発見がある。道端の花、月の満ち欠け。子どもが増えれば、もっと豊かな日々が送れると思うけど…》

 「そろそろ弟か妹がいてもいいね」。会社員の徹さん(39)は、テレビを見ながら何げなく切り出した。妻(31)の答えは意外なものだった。「今は仕事休めん。迷惑が掛かるもん」。結婚前は「子どもは3人」と言っていたはずなのに。

 IT関連会社に勤める妻は最近、実力を認められ、契約社員から正規雇用された。この不景気にありがたい。責任ある仕事が一気に増えた。「見込んでくれた上司に恩返ししたい」と言う妻の意思は固そうだ。

 4年前に息子を身ごもった時、妻は当時の勤務先で育児休業を取れずに退職した。それでも経済的に将来が不安で、生後半年で保育所に預けて再就職。帰宅が午後10時を過ぎることも多く、ほぼ毎日、自分が保育所に迎えに行っている。

 もちろん2人目ができたら、できるだけのことはしたい。ただ、実際に産むのは妻であり、つわりや産前産後の休暇など、キャリアに一定の影響が及ぶのは避けられない。生き生きとまい進する姿に「いつなら産める?」とは聞きづらい。妻の仕事が落ち着くまで、もう少し待とうと思う。

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 《まだ若かったし、妻が「5年はいいかな」と言っていたから。でも、とうに“期限”は過ぎた。そろそろと思うけど…》

 カード会社に勤める敦さん(39)が2004年に結婚した時、妻はまだ20代だった。医療機器メーカーで働くキャリアウーマン。子どもはすぐにでも欲しかったが、ひとまず封印した。

 5年が過ぎた。夜の生活がなくても平気になっていった。お互いに忙しく疲れていた。ゆっくり寝る方がよかった。仲が悪いわけではなかったが、セックスレスが続いた。応じてくれなければ授かりようがない。

 妻がその気になったのは昨年の初めごろ、高齢出産とされる35歳を迎えてからだった。基礎体温を測り、月に1回、妊娠しそうな日に試みるようになった。

 それから1年余り、だんだんと「義務的になってくる自分」に気付いた。今はそれを「気取られないようにしている自分」もいる。子どもは欲しいはずなのに乗り切れない自分に戸惑っている。不妊治療をするのはもう少し待とうと思う。

 (文中仮名)

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 ◆2013年1月掲載。文中の年齢、肩書、名称などの情報は全て当時のものです。少子化が止まりません。子どもを望む人が産みやすい社会、産んでよかったと思える社会にするには…。当時の連載を読み返し、考えるヒントにしてみませんか。

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