【動画】牧のうどん「ここだけ」が生む“魔法”

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 糸島市に本店を置く「釜揚げ牧のうどん」は「牧」のうどんだ。本店から500メートルほど南に下ると、「牧」と呼ばれた地に畑中製麺所がある。

 福岡、佐賀、長崎の全18店の店長らが朝と昼、本社向かいの畑中製麺所に集まり、麺の生地を受け取る。それから本店に寄り、重さ40キロもあるスープ入りの缶を一つ一つワゴン車に積み込み、それぞれの店に持ち帰る。店によって味の違いが出ないように、ここでしか麺とスープはつくらない。

 「製麺所がそのままうどん屋になったのが牧のうどんです」と畑中俊弘社長(58)。祖父が立ち上げた畑中製麺所では、従業員のまかない食として釜から揚げたばかりのうどんが振る舞われていた。その味が評判となり、昼時になれば近所の人が丼を持ってくるまでになったという。父、立木(たつき)さんは1973年、そのそばに「牧のうどん」を構えた。

 他界した立木さんを知る人たちが語る。当時の製麺所では、ゆでた麺を水で締めて学校や食堂などに納めていた。ただ、立木さんは、釜から揚げたばかりのうどんのおいしさを味わってほしいと考えた。製麺所は麺をゆがき続け、硬いのも軟らかいのもある。「子どもからお年寄りまで喜んでもらいたい」。開店当初から「やわめん」「ちゅうめん」「かためん」と麺の硬さを選べるようにしたという。

 店でもお客さんの声に耳を傾け、試行錯誤を重ねた。「唇でも切れるぐらい」の軟らかさを求められる時代もある中で「魔法」が生まれた。食べても食べてもなくならない、むしろ増えていく。そんな錯覚。通常の店の倍以上という500グラムの麺に膨らみを感じ、それが腹持ちの良さになる。

 しっかりゆでて、角が取れた麺はスープを吸い込む。水で締めると浸透しにくくなるが、牧のうどんは釜から揚げた麺をそのまま丼に入れ、そこにスープを注ぐから、ぐんぐん吸い込む。スープが足りなくなれば、やかんでつぎ足せる。

 そのスープは高級の利尻昆布などを水に浸し、3時間半煮込んでつくる。「うちみたいに利尻昆布を使ううどん屋はない。だし昆布の使用量は年間三十数トンで、業者に言わせれば日本一」と畑中社長。麺ばかりが注目されがちだが、調味料に頼らない、この昆布だしが要だと考える。

 現場を取り仕切る統括店長の山田雅也さん(44)も「麺とスープが牧のうどんの命」。製麺所や本店からの輸送時に味が落ちないように全18店舗は1時間半圏内にある。東京や大阪進出の声もかかるが、この1時間半にこだわる。

牧のうどんの加布里本店。釜をかたどった看板が目印だ

 ここだけの店に、帰省した人たちは吸い込まれる。久しぶりの店内には、釜と対峙(たいじ)する製麺者の男性のそばに、作り手の女性。男性が麺を丼に入れると、女性が手早くスープを注ぎ、ごぼう天などの具材を載せる。この二人が「夫婦役」。カウンターの向こうでは従業員がせわしく動き、お客さんの注文を取り、うどんを運ぶ。自らの手が空けば誰かの助けに回る。

 「あうんの呼吸がなければ、動きがバラバラになる」と山田さん。年に1度、国内外の社員行が会社負担であり、つながりを深くする。家族のような連携によって、ここにしかないうどんが成り立つ。

 親や妻子のもとに戻った人たちがついつい食べたくなる牧のうどん。年末年始や盆休みになると、いつも以上に店がにぎわうのだという。(入江剛史)

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