「孤独相」の新設 希望を生む本腰の対策を

 この問題の裾野は広く、実態は深刻だ。国民の暮らしを支える諸施策を総点検し、社会全体に安心と希望を回復していく本腰の取り組みが求められる。

 菅義偉首相が「孤独・孤立問題」担当相を新設した。坂本哲志1億総活躍相に兼務を命じ、内閣府や厚生労働省、文部科学省など6府省の職員約30人で構成する対策室を設置した。

 新型コロナウイルス禍による女性や子どもの自殺急増などを受けた措置で、過去に例のない試みだ。感染防止や緊急経済対策に加え、孤独や孤立を防ぐ多面的な取り組みを省庁横断で進めることが狙いという。

 当面の課題を洗い出そうと25日には首相官邸で民間支援団体の代表らの声を聞く緊急フォーラムを開催した。首相は近く関係省庁連絡調整会議を設置し、政府が夏に策定する経済財政運営指針「骨太方針」に対策を盛り込む方針も示している。

 まず重要なことは感染症が人と人の距離を隔てている現実をいま一度直視し、対策の視野を広げることだろう。コロナ禍が引き起こした負の連鎖は、自殺や家庭内暴力の多発、感染者や医療従事者への差別や偏見といった問題にとどまらない。

 例えば、コロナ感染症で家族を失う人は別れ際に立ち会えず葬儀も満足に営めない。高齢者施設は集団感染が続発し、家族との面会がままならない。大学ではオンライン講義が続き、学生同士の交流もできない-。決して軽視できない状況がある。

 坂本担当相は当面想定する施策として高齢者や子どもの見守り、地域のつながりの強化などを挙げる。いずれも重要だが、具体的にどう取り組むのか。孤独や孤立について「行政としての定義や支援の指標を設けるべきだ」という指摘もある。

 コロナ禍は日本社会の矛盾もあぶり出した。非正規で働く人々の解雇や雇い止め、中小事業者の相次ぐ倒産や廃業、外国人労働者の苦境など、しわ寄せは弱者に集中する。格差の解消や多文化共生への処方箋は欠かせない。生活支援の各種相談窓口はあっても主管官庁が分かれ、周知も十分と言えない。縦割り行政の是正も含め、セーフティーネットの再構築が課題だ。

 孤独担当の閣僚は英国で導入例があり、野党の国民民主党からの提案を菅首相がそのまま受け入れた。背景には不祥事続発による支持率低迷があり、新たな目玉政策を掲げる狙いも透ける。仮に政権浮揚が主目的であれば底が浅い判断で、国民の理解や後押しは得られまい。

 首相には社会構造の変革も見据えた展望を求めたい。国会も与野党で議論を重ね、打開策を探る機運を盛り上げてほしい。

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