ミシン響かせ46年…「思い出」繕い新たな息吹

【日田めいじん100選 小野さん夫婦】

 大分県日田市刃連町に「困った時の麦工房」と頼りにされている縫製店がある。小野政一さん(70)、千恵子さん(67)夫婦が経営する「麦工房」。形見の着物はワンピースに、廃棄物となったソファは丈夫なバッグへの仕立て直しと、2人は「ミシンで縫える依頼は全て受けてきた」。それぞれの思い出が詰まった古布を、夫婦は魔法のようによみがえらせている。

 ラジオが流れ、色や太さが違う何本もの巻き糸が壁に並ぶ18畳の作業場に、「カタカタ」とミシンの音が静かに響く。2人はそれぞれ愛用の電子ミシンに向かい、黙々と作業をする。依頼者の思いを正確にくみ取るため、相談を受けた方が最後まで1人で仕上げる。

 夫婦が縫製店を始めたのは1975年。同市豆田町に店を構え、当初は婦人服などの既製品を下請けで製作していたが、生産拠点が中国に移ると発注が激減した。

 89年に店を刃連町に移転してすぐのころ、店を訪ねてきた女性から「着物で洋服を作ってほしい」と頼まれた。着物を縫い直す手法があるのは雑誌で知っていたが、初めての注文に戸惑った。2人で相談しながら丈の長いシャツにしてみると、着物とは違う味わいある逸品に仕上がった。以来、古布を再生する魅力にはまり、仕立て直しを仕事のメインに。出来栄えの良さが人づてに広まり、今では全国から年間100件以上の注文を受ける。

 古布の中でも、近年は着物の処分に困る人が増えているという。捨てるのは忍びないが、保存も難しいためだ。ある日、もう着ないので処分してほしいと着物50着を持ち込んだ女性がいた。「これは入学式、こっちは卒業式で着た…」。懐かしむ様子に、政一さんは「形に残しませんか」と提案。きれいな部分を切り取り、何枚かを縫い込んで壁掛けにした。

 仕立て直すのは着物だけではない。稽古で履き尽くした剣道のはかまは、藍染めを生かしておしゃれな帽子に。博多織の帯はハンチング帽に。カラフルな大漁旗はバッグに縫い直した。

 大切にするのは所有者の思い。「姉の結婚式に出席したいが、車いすが目立ってしまう」と悩む障害のある女性の依頼には、車いすがすっぽり入るスカートを提案。「少しでも明るい気持ちに」(政一さん)と色は淡いピンクにした。

 縫製とは畑違いと思える依頼もある。最近も「スポーツカーに風が入らないよう、ドアの隙間をレザーで埋めてほしい」と相談があり、レザーを縫い合わせて製作中だ。政一さんは「どこまで挑戦できるか、考えるとわくわくする」。千恵子さんは「思い入れのある品にはさみを入れるのは緊張するが、ありがとうと言われる瞬間が一番うれしい」と、やりがいを語る。

 着られなくなった形見の着物は、洋服にすれば故人と一緒に行できる。不要になった物も形を変えればまだ役に立つ-。そんな思いで、夫婦はきょうもミシンに向かっている。「カタカタ」と。 (中山雄介)

 メモ 縫製店「麦工房」の2階には、古布から製作した作品が展示販売されている。市町村合併で不要になった消防団の法被を加工したジャケットや、鹿児島県特産の伝統織物「大島紬(つむぎ)」の泥染め模様がそのまま残るベストやバッグが並ぶ。約10年前からは福岡市のデパートで開かれる物産展に出品もしている。麦工房=0973(22)2160。

「日田めいじん100選」ヒタスタイルと共同企画

 西日本新聞は日田市の無料情報誌「ヒタスタイル」と共同で「日田めいじん100選」の企画に取り組んでいます。日田に住む、もしくは働く名人や達人など、その道の極め人の紹介です。本日発行のヒタスタイルにも同時掲載されています。ぜひご覧ください。

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