被災地米が醸造した思い 復興の酒造り、支援から支え合いへ 

 酒好きの直感が働いた。「自分にできる支援があるのでは…」と、知り合いの酒造会社に打診した。東日本大震災の被災地で収穫されながらも、風評被害で一度は拒まれた酒米から、佐賀の新しい酒が生まれた。東北と九州。二つの土地で関わった多くの人たちの思いをつなぐ酒は「絆伝心(きずなでんしん)」と名付けられた。

 酒好きとは、国際交流を進める佐賀市のNPO法人理事西村一守さん(72)。米どころで知られる宮城県登米(とめ)市の酒米が、原発事故の風評被害で取引停止に陥ったことを耳にした。

 西村さんから相談を受けた佐賀県みやき町の天吹酒造、木下武文会長(79)は酒米の買い取りを快諾。検査機関で安全が証明された約600キロで醸造した千本の酒は、震災翌年の復興支援イベントで完売した。酒の一部は東北へも届けた。

 世間の関心が薄れたのか、3年目で初めて在庫が生じる。潮時かと悩む西村さんを仲間が後押しした。「復興は終わっていない」「関心が薄れるときこそ支援を」。所属するNPO「地球市民の会」や地元ライオンズクラブなど約30人で始めた小さな活動は、学生ボランティアや福祉事業者ら200人以上を巻き込むプロジェクトに成長した。

 2016年4月、熊本地震が活動の転機となった。支援を続けてきた登米市の農家が「今までの恩返しに」と酒米を無償提供してくれた。両者の関係性は「支援」から「支え合い」という双方向になり、スローガンも「応援・交流」に変えた。災害が起きた地域に絆伝心を届け、復旧作業の合間に紹介してつながりを広げる-。酒を通じて支え合いネットワークを構築する、との狙いが明確になった。

 佐賀県を襲った19年の記録的大雨では被害が大きかった同県大町町で活動。20年の熊本豪雨では熊本県人吉市にも向かった。西村さんは「東北の話も熱心に聞いてくれた。それどころじゃないという人もいたが、酒好きの人は特に喜んでくれた」と振り返る。

 新型コロナウイルスの影響で冬の仕込みを見送ったため、今年は保管していた300本を、13、14日に佐賀市で開く「さが*ひな市」で販売する。状況が落ち着けば、改めて東北の被災地を巡って酒を届ける考えだ。「酒を飲めば、みんな自然と友だちになる。活動は楽しい。天職ですよ」。直感は当たった。

 (星野楽)

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