【まちそだて人】松田美幸さん

市民を地域の主体者に

 政治不信が膨らむ中で、私たち一人一人が主権者としての責任を果たしているかが問われている。自治体レベルであれば、わがまちへの関心や当事者意識をどれだけ持っているか。自分が住むまちの状況や課題を把握し、「自分ごと」として考え、判断する力を備えているか。

 地域の活性化を語るときに「まちづくり」や「まちおこし」という言葉を聞くが、「まちそだて」はまだ浸透していない。「まちそだて」を提唱したのは、空間計画学の研究者だった故延藤安弘さん。「まちそだて」を、市民・行政・企業などが主体的に関わり、人間と人工と自然のやわらかな関係を育むとともに「人間の意識・行動も育まれていくプロセス」と定義した。

 地域に根差して活動している方々が実践してきたのは「まちそだて」ではないかと思うことが多い。「まちおこし」の事例だと、ともすれば外部の人に依存する傾向があり、「まちづくり」には、ボトムアップでプロセスを重視した市民参加の概念が色あせつつあるように感じる。その点、「まちそだて」には、住民の主体性を感じる。

    ◆   ◆ 

 福岡県旧津屋崎町で、まち並みや環境の保全に取り組んだ故柴田治さんと、その遺志を継ぐ妻の富美子さんは、まさに、「まちそだて人」だ。柴田夫妻と共にまち並み保存に関わった女性たちから、意識や行動の変化にまつわる、いくつもの逸話を聞いた。

 1990年代後半に、沖合に新空港建設案が持ち上がった。環境保全の視点から反対運動に関わった女性たちのとった行動が傑作だ。空から視察が来るという日、候補地を見渡す海岸の砂浜に地元の海で採れたワカメで、「空港反対」の文字を書いたのだ。

 その後も彼女たちは、ウミガメの保全活動の中心的な存在となり、失われつつあったまち並みを、自分たちで保存しようという動きを育てていった。同時に、議会の傍聴を欠かさず、行政の情報を把握する活動も継続している。

 20年以上経過した今も、手作り音楽イベントの企画や、天然藍による藍染で手仕事を生み出すなど、まちに潤いをもたらすことに余念がない。

    ◆   ◆ 

 宮崎県新富町は地方創生の優良事例として評価され、ひと粒千円ライチの成功や農業ベンチャーの活躍などが目立つ一方で、たくさんの「まちそだて人」が育っている。人通りの少ない商店街をコミュニティーづくりの場にしようと、子どもたちが毎月楽しみにしてくれる朝市を始めた鈴木伸吾さんは、都会で13年暮らした後、地元に恩返しがしたいと戻ってきた。

 空き店舗を活用したビジネスを始める人も増え、住民が「まちそだて」の主役になってきた。小嶋崇嗣町長は、何かをやらないというのは100ある選択肢の一つで、残りの99のやり方を試せば挑戦できると、住民の背中を押す。

 同県都農町も、同様に町外からの人材を得て、「まちそだて」が始まったところだ。10代後半から20代前半の人材の減少は著しく、町内で唯一の高校が年度末で閉校になる。町が好きで、残るからには地域に貢献したいと町役場に就職して18年目の山内大輔さん。若手の数が少なくなることよりも、まちの未来を自分ごととして考える人、語る人が少なくなることに危機感を抱き、一人の町民の心を動かす感覚が最大のモチベーションだと話す。町が出資した財団に出向し、住民を「まちそだて」に誘い込むべく、町民の暮らしに近い商店街に財団の拠点を移した。

 誰もが主体的に「まちそだて」に関わるまちこそが、持続可能になるのだろう。自治体のトップや職員が住民を誘い込む力も問われている。

【略歴】1958年、津市生まれ。三重大教育学部卒、米イリノイ大経営学修士。福岡県男女共同参画センター長、同県福津市副市長など歴任。内閣府男女共同参画会議議員。日本DX(デジタルトランスフォーメーション)推進協アドバイザー。

PR

社説・コラム アクセスランキング

PR