「違法捜査」地獄の12日間 今も恐怖 訴訟あす判決

 熊本地震の避難所で当時小学6年の女児に「わいせつな動画を見せた」として逮捕され、熊本家裁で刑事裁判の無罪に当たる不処分の決定を受けた当時19歳の会社員の男性=熊本市=が「違法な取り調べで苦痛を受けた」として熊本県に損害賠償を求めた訴訟の判決が3日、熊本地裁で言い渡される。

 訴状などによると、男性は2016年5月、「スマートフォンでわいせつな動画を見せた」として県少年保護育成条例違反容疑で県警に逮捕され、取り調べのため12日間拘束された。しかし、男性のスマホからわいせつな動画の閲覧履歴が確認されず、家裁は同10月、「非行事実なし」と結論付けたという。男性は「県警の取り調べで黙秘権を侵害され、接見内容を聞き出そうとされた」と主張している。

 男性は17年6月、県公安委員会に苦情を申し立てたが、県警は「職務執行は適正」と回答。一方、うその被害を申告したとして女児の母親を相手に損害賠償を求めた訴訟で、二審福岡高裁判決は昨年9月、賠償請求は棄却したものの「母親の供述は信用性が乏しく、一部は虚偽で違法」と認定。判決は確定している。

 熊本県警は「訴訟中のためコメントできない」としている。 (綾部庸介、松本紗菜子)

警察官の姿 今も恐怖心

 3日の判決を前に、原告の20代男性=熊本市=が西日本新聞の取材に応じた。男性は逮捕当時を振り返り「熊本県警は冤罪(えんざい)と認めて謝罪してほしい」と訴えた。

 「あなたに容疑がかかってます」。熊本地震1カ月後の2016年5月16日朝、勤務先に現れた警察官の一言で、男性の人生は一変した。

 「思い当たることがない」と言っても聞き入れてもらえない。署で逮捕され、避難所で隣り合う場所にいた女児の母親が「娘がわいせつ動画を見せられたところを見た」と県警に訴えたと知った。

 取り調べの口調は日に日に厳しくなった。非行を前提に「反省の色がない」「(男性に)不利になるものばかり出てきている」などと言われた。10歳ほど年上の警察官には「自分で自分の首を絞めよっとぞ」と詰め寄られた。

 男性が否認し続けられたのは、面会に来る母親や弁護士に励まされたからだ。「認めた方が楽、とまでは思わなかったが、母や弁護士の支えがなかったら…」。27日の釈放まで続いた12日間の取り調べを「地獄」と振り返る。

 釈放後1カ月ほど、自宅にひきこもった。次第に外出できるようになったが、職場復帰した夏のある日、ストレスが爆発した。

 母親によると、飲み会に出掛けた男性が「何があったか覚えていない」と言い、真っ青な顔で震えながら帰宅した。繁華街で大勢の警察官を見掛けたことが引き金だった。それ以来、記憶を突然失う「解離性健忘」の症状が現れ、メモ帳が手放せなくなった。通院し数カ月で改善したが、逮捕から1年間は下痢などの体調不良が続いた。

 地震から間もなく5年。男性は逮捕された日が近づくと今でも不安になる。「出勤するのが怖くなる。警察がいるような気がして」

 昨年9月、訴訟の尋問で、当時取り調べを担当した警察官は、男性の代理人弁護士に「今でも彼(男性)の話を信用していないのか」と問われ「そうですね」と答えた。男性は「このままではまた、同じような被害者が出ますよ」とため息をついた。 (綾部庸介)

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