「病院にエンタメを」心を躍らせる作業療法士 平田創士

シン・フクオカ人(24)

 〈壁にぶつかったときに必要なのは、小さな手応えなのかもしれない〉

 福岡市の病院で働く作業療法士・平田創士(36)はその時、胸が締め付けられる思いだった。

 入院していた少女(17)は看護師を目指していたが、長期的な治療のため、高校は退学するしかなかった。せめて卒業式に行って、同級生を見送りたい。その願いもかなわないと分かると、ぽつりと漏らした。

 「大丈夫、慣れてるから」

 患者がスムーズに日常生活に戻れるよう、リハビリを通じて心身の健康を支えるのが仕事。動く意欲を引き出そうと、努めて「何かやりたいことはないですか」と聞いてきた、それなのに。諦めることに「慣れてるから」と言わせてしまったことを思い出すと、今でも泣きそうになる。

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 作業療法士になった原点には、肺炎で入院した小学校時代の記憶がある。親も病院スタッフも優しくしてくれて、普段なら駄目と言われそうな物も買ってもらえて、「病気って楽しい」とインプットされた。

 専門学校を出て病院に就職すると、記憶とは懸け離れた世界が広がっていた。病気だから、痛かったり苦しかったりするのは当然だろう。でも患者の多くが、やりたいことも行きたいところも「ない」と答えるのだ。思い出とのギャップに驚いた。

 楽しい場に連れ出したくても、別の「壁」が立ちはだかった。

 例えば、おじいちゃんが「スナックに行きたい」と言ったとしたら。店まで歩いて、いろんな人とおしゃべりして、カラオケで大きな声を出すこともできる。「運動してください」と言うより、何倍もリハビリ効果があるのではないか。

 もちろん、新型コロナウイルス禍ではできないことだらけ。でも、そうでなくても「病院だから」「病人だから」駄目という、見えない足かせを感じる。

 「何で病院が楽しくちゃいけないんだろう」。もどかしさが募った。

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鉛筆の芯に彫り込んだ作品。右は南京錠に鍵がぶら下がっている

 仕事が終わると、趣味に没頭する。実は「えんぴつ彫刻家ひらたそうし」として活動し、個展を開くほどの腕前。直径2ミリの芯に、カッターの刃先で動物や人を彫っていると、まっさらの無心になる。十数年前にテレビで見て「自分にもできそう」と始めた。

 「できそう」と思ったら何でもやってみるタイプ。お笑い芸人を病院に招いたこともある。院内を歩き回ってもらっただけなのに、患者たちがベッドから出てきて笑顔になった。

 「芸人さんは人の心を動かすプロ。心が動けば、人は動くんだな」

 プライベートでも芸人のイベントを主催した。

 高校の卒業式に出られなかったあの少女を、保護者の許可を得て招いた。受付係を頼むと、少女は客が入るたびに椅子から立ち上がって出迎えた。「疲れたけど楽しかった」。いい笑顔だった。

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 少女は退院後、事務職に就いた。仕事の傍ら、手先が器用なのを生かして、手作りのベビー用品をインターネット販売しているという。

 あの時、イベントを手伝ってもらったことが、彼女の何かを変えたかは分からない。でも、少しでも前向きになってくれたのだったらうれしい。

 患者の作品を持ってきてもらって、院内個展を開くこともある。鉛筆彫刻もリハビリに取り入れてみたが、難しすぎてうまくいかなかった。失敗と成功を繰り返しながらも、目指すのは楽しくて行きたくなる病院。外出ついでに寄って、気軽に検査ができれば、病気の予防にもつながる。

 「医療福祉にこそエンタメを」。そのために「心を躍らせる作業療法士」になるつもりだ。

=敬称略(山田育代)

「脳」を表現した平田創士さんの作品。絵を描くのも昔から大好き

 

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