『すばらしき世界』原作・佐木隆三 出所男に壁次々、我慢だ我慢

フクオカ☆シネマペディア(27)

 北九州市と縁が深いノンフィクション作家、佐木隆三の小説が原作の「すばらしき世界」(公開中)は、殺人罪で13年間の服役後、出所した男が社会復帰を目指す物語。原作「身分帳」にほれ込んだ西川美和監督が、主演に役所広司を得て、心に純粋さと闇が同居する元受刑者と彼を取り巻く社会を描き出す。

 佐木作品の映画化は連続殺人犯、西口彰をモデルにした「復讐するは我にあり」(1979年、今村昌平監督)が有名だ。西川監督は初めて見た学生当時を、「泣きたくなるほど人間を見たような気になるのはなぜだったのか」(「身分帳」復刊あとがき)と振り返る。原作を読んだ。「人間の業も狂気も情も性も丹念に描き分ける佐木さんの筆力は魅力だった」(同)。佐木作品を読み重ねた先で出合ったのが「身分帳」だ。

 「すばらしき世界」の主人公、三上(役所)は幼少期、博多芸者の母親と離別し養護施設で育つ。10代半ばで暴力団に出入りし、前科10犯。組織に属さぬ一匹おおかみで、けんかの強さで名をはせた。若い暴力団員から襲われ、逆に日本刀でめった刺しにし殺人罪で収監され、旭川刑務所を満期で出所したばかりだ。

 三上は、身元引受人の弁護士夫妻らの支援を受け、東京のアパートで1人暮らしを始める。働きたいが、仕事が見つからず、生活保護を受ける。裏社会と塀の中しか知らぬ男は一般社会では浮き上がったり、ぎくしゃくしたり。次々と壁が立ちはだかる。行政窓口では間合いが取れず問答になる。連夜騒ぐアパートの住人に声を掛けるとすごまれ、けんかの悪癖が出そうになる。地域には三上の前歴が伝わっていて、買い物をすると万引を疑われる。

 歯がゆさに身をよじり、爆発寸前でぐっとこらえる三上。周囲は大人の処世を求める。我慢、我慢の連続だ。

 優しくて正義感があるが、激情型で理不尽な目に遭えば暴力を振るう。母親探しにつながるならとテレビの取材を受けるが、チンピラたちに絡まれる市民を見て助けに行く。容赦ない暴力に取材者は逃げ出すほどだ。生き生きする三上。勝った高揚感が残る1人の部屋で、博多弁で「ぼてくりこかすぞ」と口にする。以前の自分に戻ればどこか生気がわくが、またはみだしそうだ。そんな三上も介護施設への就職が決まり、張り切って勤め始めるが…。

 高倉健が刑務所を出所し、元妻から無事に迎えられる男を演じた「幸福の黄色いハンカチ」(山田洋次監督)が出所時の夢のドラマなら、今作はその後の現実そのものだろうか。

 弁護士夫妻やスーパー店長ら多くの人が三上の世話をする。元受刑者に対する社会の支援は進んでいる。まっすぐな三上の人柄に引かれもするのだろう。一方で、社会的弱者としての元受刑者を追い詰める世界も描かれる。三上の七転八倒が今の社会の在りようをそのまま反映するように思えた。素晴らしい役所の演技と相まって、西川監督の人物造形にはすごみのようなものがあった。

 福岡県内でも撮影があった。三上が母親探しに帰郷し待ち合わせるのは、福博であい橋(福岡市中央区)。新北九州空港連絡橋など北九州市も物語の舞台の一つになった。 (吉田昭一郎)

※「フクオカ☆シネマペディア」は毎週月曜の正午に更新しています

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