ビルの谷間に…縁結びの御利益あるかも?【めがね地蔵・福岡市中央区】
※記事は2011年1月22日付本紙朝刊から。文中の年齢、肩書、名称などの情報はすべて掲載当時のものです※
福岡市・天神のど真ん中に、縁結びの御利益を与えてくれる地蔵があると聞いた。
「めがね地蔵」。そう呼ばれているという。
地蔵は、イムズと天神愛眼ビルの間にある幅1メートルの小道の奥に、ひっそりと立っていた。
目の回りにある縁取りは、確かに眼鏡を掛けているようだ。首には本物の眼鏡もある。
地蔵のそばに石碑が立っていた。それによると、かつて、愛眼ビルの前で待ち合わせると、縁が結ばれるといううわさがあったらしい。
地蔵、愛眼ビル、縁結び。三つのキーワードはそれぞれどう関係するのか。謎めいた都市伝説がありそうだ。もっと詳しく知りたいと思い、天神愛眼グループ専務の男性(39)を訪ねた。
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「めがね地蔵のことですね。それなら、まず初代、愛眼ビルのことから話さないと…」。男性が、おもむろに語り始めた。
実は今の愛眼ビルは2代目で、30年ほど前は、初代の旧愛眼ビルが建っていた。ビルは鮮やかな黄色の外壁で覆われ、すぐ前にはバス停があった。
携帯電話やポケベルがない時代。バスを降りると、目に飛び込んでくる黄色いビルは、格好の待ち合わせスポットになった。今で言うなら、福岡三越の「ライオン広場」のような場所である。
折しも映画「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」がヒットしていた。その影響からか。「あそこで待ち合わせると、恋が成就する」という評判が、次第に広がっていったという。
男性の説明で少し謎が解けてきた。
どこかに淡い恋物語を知る人はいないものか-。探し歩くうちに、県留学生サポートセンターに勤務する女性(44)にたどり着いた。
「縁結びのうわさは知らなかったけど…」。女性は懐かしそうに、思い出をたどった。「派手な色だしCMでも見ていたので、友だちとの合流場所によく使ってた。中洲の映画館に行くのに便利でしたよ」
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人々に親しまれた旧愛眼ビルだったが、その後、隣接する歩道の拡幅のために、取り壊しの計画が持ち上がる。
そんな時だった。当時の社長=現グループ会長=は出張先の東京で、知人からこんな話を耳にした。「うちの息子はなかなか結婚できない。おたくのビルの前に立てば、縁が結ばれるのではないだろうか」
福岡の伝説は、東京にまで届いていた。
福岡に戻った社長が社員に事情を尋ねると、お客や市民から「思い出のビルを壊さないで」との要望が相次いで寄せられていることを知った。
とはいえ取り壊しは避けられない。新しいビルの外壁は、隣に建つイムズと同じ黄金色に合わせる予定だった。「縁結び」から発想を膨らませて思い立ったのが、「めがね地蔵」の建立だった。
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1996年、現在の愛眼ビルが完成した。めがね地蔵も間もなく建てられた。しかし-。1年もしないうちに、心無い人に壊されてしまう。
すぐに2代目が、小道のさらに奥に作られた。現在、めがね地蔵が人目に付かない場所にあるのは、こうした経緯がある。2代目のそばには今も、初代地蔵を載せていた小さな台座が残っている。
今では「伝説」を知る人も少なくなった。それでも、おさい銭を置いたり、マフラーや服を着せたりする人がいる。時々、眼鏡も掛け替えられ、サングラス姿になったこともある。
2月14日はバレンタインデー。恋愛成就を願う、あなた! 想いを寄せる異性と一緒に、都会の片隅に静かに立つ、めがね地蔵に手を合わせてみてはいかが?