中国、少数民族の「同化」加速へ漢語教育強化

 【北京・坂本信博】中国の習近平国家主席は全国人民代表大会(全人代=国会)で、固有の民族語を持つ少数民族への標準中国語(漢語)教育を強化し、「中華民族の共同体意識」を植え付けるよう指示した。全人代常務委員会で法案起草を担う法制工作委員会も、長年認められてきた民族語教育は「違憲」との見解を打ち出しており、少数民族に対する漢族同化政策が加速するのは確実。少数民族が多く暮らす地域では動揺とともに諦めも広がっている。

 「漢族と少数民族は切り離せず、少数民族と漢族は切り離せない。偉大な祖国、中華民族、中国共産党に対する各民族の帰属意識を高めねばならない」。習氏は5日、全人代の内モンゴル自治区代表団会議で強調した。「標準語の普及活動を真剣に行い、国家の統一的な教材の使用を全面的に進めよ」とも述べた。

 中国には人口の約9割を占める漢族の他に55の少数民族が暮らし、中国の憲法は、民族語を使う権利の保障を明記。少数民族に対して民族語での教育を義務付ける法令もある。少数民族の子どもたちが通う民族学校では、中国語や英語を除く科目の大半は民族語で授業が行われてきた。

 しかし、習指導部は2017年以降、少数民族への抑圧が指摘される新疆ウイグル自治区やチベット自治区で、標準語中心の義務教育をする同化政策を開始。内モンゴル自治区や甘粛、吉林、遼寧、青海、四川の計6省・自治区でも昨秋から標準語教育を強化した。

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 内モンゴル自治区は昨年9月から、モンゴル語を使う授業を大幅に削減。国語と道徳、歴史の教科書として民族色を排した全国統一の教材を導入し始めた。

 教員や保護者、生徒らが反発し、抗議デモや授業のボイコットをしたものの、当局は公表分だけで9月下旬までに少なくとも170人以上を逮捕した。区都フフホトの女性教員は「当局は監視カメラや通信記録をチェックし、密告も推奨した。抗議活動は2週間でほぼ鎮圧された」と話す。

 全人代常務委は昨年末、少数民族政策を担う国家民族事務委員会の主任(閣僚級)に、漢族の陳小江氏を充てると発表。香港メディアによると、この役職に漢族が就くのは66年ぶりで、少数民族統治が強まるとみられていた。今年1月には法制工作委の沈春耀主任が、民族語教育は「憲法に合わない」と表明。「国家は共通語を普及させる」という憲法の条文を根拠に、地方政府に法令改正を求めた。

 習氏は今回、「誤った思想や見方には旗幟(きし)鮮明に反対せよ」とも発言しており、民族語教育の削減や禁止がさらに進むとみられる。

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 北朝鮮との国境があり、約110万人の朝鮮族が暮らす吉林省の延辺朝鮮族自治州。州都の延吉では、共産党のスローガンを含め、街で目にする看板のほとんどにハングルが併記されている。中国語より先に書かれているものも少なくない。「ずっと当たり前だったこの光景も、いつまで続くか…」。朝鮮族の50代女性は、周囲を警戒するように抑え気味の声で言った。

 女性によると、自治州でも小中学校の政治や歴史など一部教科が朝鮮語から標準語に切り替わった。延吉では昨秋、当局が大学幹部などの教育関係者を集め「当局に反対しないように」と指導。「進学や就職のためには標準語で教育を受けた方がいい」との声もあり、中国語の家庭教師の需要が急増したという。

 内モンゴル自治区での弾圧を中国メディアは一切報じていないが、口コミで延吉にも伝わっている。「街中に監視カメラがあり、インターネットは検閲されている。今の政府に逆らっても良いことは一つもない」。女性は自分に言い聞かせるように語った。

自治政策撤廃への布石か

 内モンゴル自治区出身で中国の少数民族政策に詳しい静岡大の楊海英教授(歴史人類学)の話 長年続いてきた教育手法を突然違憲とするのは無理筋だ。内モンゴル自治区を巡る国内外の抗議や批判を受け、当局の措置を正当化する狙いだろう。少数民族を漢族に同化させる政策であり(少数民族に代表権や自治権を認める)区域自治政策を将来的に撤廃するための布石とする可能性がある。

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