全線開通、沿線浮揚まだら模様

岐路の大動脈 九州新幹線全線開通10年①

 福岡空港の給油会社で働く北島栄二さん(43)は、早出勤務の日など月に4~5回、福岡県筑後市の自宅から九州新幹線で通勤する。

 午前6時に筑後船小屋駅発の上り始発列車に乗り、26分で博多駅に到着。地下鉄に乗り換え午前6時45分には自宅から約50キロ離れた職場へ。作業服に着替え、午前7時から業務に就く。

 妻と保育園に通う5歳の双子の息子と4人暮らし。以前は空港近くの社宅に住んでいたが、2019年10月に古里の筑後市に新居を構えた。プロ野球福岡ソフトバンクホークスの2軍本拠地「タマホームスタジアム筑後」の前にある自宅から駅まで徒歩3分。近所に両親も住み、子育てがしやすい環境に満足している。

 新居を建てる場所は、当初は福岡都市圏で探したという。普段は在来線で通勤するが、新幹線で通えることも「Uターンの決め手になった」と話す。

 11年の全線開通を機に、沿線自治体は大都市との時短効果による定住者を増やす施策に力を入れた。筑後市も「新幹線も止まる田園都市」とアピール。ここ数年は若い世代を中心に移住者の人気を集め、市の人口は開通時から約650人増え、4万9470人(今年2月末)になった。

 だが、新型コロナウイルスの影響による利用者減で、JR九州は今月13日のダイヤ改正で九州新幹線の運行本数を1割強減らす。筑後船小屋駅の始発も26分繰り下がることになった。北島さんは「始業を少し遅らせられるか上司に相談しないと…」と思案顔だ。

 駅利用者も増加傾向にあっただけに、地元には定住促進の売りにしてきた利便性が後退することへの懸念もくすぶる。

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 熊本県北部の玉名市には、全線開通で新玉名駅が開業した。

 だが、全線開通前と比較した同市の人口は今年2月末で約4800人減の6万5434人と、減少に歯止めがかからない。少子高齢化に伴う「自然減」とは別に、転出者が転入者を上回る「社会減」も、最近は年100人前後で推移する。

 全線開通後に市外から移住し、住宅取得費の補助を受けた人は1200人を超えるが、転入を上回る若者の転出が続いている。

 市が一昨年、市内の高校5校に通う生徒に行ったアンケートで、大学や専門学校への進学を目指す139人のうち、将来就職を希望する地域に市内を選択したのはわずか6人。「就職したい企業や職種がない(少ない)から」との理由が最も多かった。

 一方、九州経済調査協会が福岡を除く九州6県の高校生の県外就職動向を調べた結果、全線開通後に福岡県への就職が総じて増加傾向になっていた。調査担当者は「新幹線による距離感の短縮で、福岡に人を集める力が加速した可能性がある」と分析する。

 新玉名駅の1日平均乗車人員は602人と低迷する。玉名市の現状は、新幹線が必ずしも沿線地域の浮揚につながっていない現実を物語る。

 (古川剛光)

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 九州新幹線鹿児島ルート(博多-鹿児島中央間)の全線開通から10年。九州に住む私たちの暮らしに浸透し、交流人口の拡大など観光にも貢献したが、足元ではコロナ禍による利用減に直面する。岐路に立つ大動脈のいまを追った。

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