九州の備え 「想定外」減らし続けよう

 大地震の「午後2時46分」で止まった時計もあれば、大津波にのまれ「午後3時37分」を指したままの時計もある。

 東日本大震災から10年となったきのう、全国各地で犠牲者の追悼式が営まれた。未曽有の複合災害を生みながら、あの大震災はどこか遠い地の出来事になってはいないか。九州に住む私たちにも改めて警戒と備えを促している。

■さらなる津波対策を

 「3・11」は巨大津波の持つ破壊力を世界に示した。これを受け、国内で次に覚悟すべき危機としてにわかにクローズアップされたのが南海トラフ巨大地震である。

 南海トラフ(海溝)で大地震が起きれば、静岡県から九州南部までの太平洋側を中心に大津波が襲うと予想される。大分、宮崎両県では最大で高さ15メートル前後を記録するという。

 津波に最も効果的な対策は「高台に逃げよ」である。大震災の被災地で明暗を分けた「命てんでんこ」という東北の言い伝えは「地震が起きたら各人が迷わず高きに走れ」との意味だ。これに従った多くの命が救われた。地震発生から津波到達までには時間差がある。それぞれの地域で津波到達予想時間を再度しっかり確認しておきたい。

 ただ現実は複雑だ。高齢者や障害者、幼児など逃げ遅れる可能性がある人もいる。福岡県筑前町の金属製品メーカーは大震災を機に、裏山などそれぞれの地形に合ったオーダーメード階段を手がけ、避難時間短縮に成功している。民間の力を取り入れた工夫はさらに求めたい。

 高台への移転や人工の高台建設も重要だ。太平洋沿いの宮崎市青島地区では市立保育所と市郡医師会病院が内陸側に移転した。今後は、浸水想定地域にある市町村の役所は防災拠点の機能をどう維持するか、豪雨時対応も含め喫緊の課題となる。

 落とし穴もある。東北の被災地では「防潮堤があるから大丈夫」という過信が被害を拡大した面もある。ハード、ソフト両面での備えが欠かせない。避難訓練の徹底や避難路の整備により、この10年間で災害の予想死者数は確実に減ってきた。

 大震災以降、各地で続発した災害で多くの場合、発生そのものや規模、範囲が「想定外」と表現された。5年前の熊本地震も典型例だ。震度7を2回観測しただけではない。熊本市の広範囲で住宅地に生じた液状化を忘れてはならない。東日本では千葉県を中心に起きた。

 防災・減災は、いかに「想定外」を減らしていくかという備えと同義である。九州には二つの原発もある。九州から延べ1100人余の自治体職員が福島など被災6県に派遣された。その経験を確実に生かしたい。

■災害前に復興を議論

 近年「事前復興」という取り組みが注目されている。災害が起こる前から、最悪の事態を想定して行政と住民組織が話し合い、避難地や被災後の復興の方向性を共有することだ。それでも想定外は起こるだろう。日ごろから住民一人一人が問題意識を持つことは極めて重要だ。

 東北では人口の自然減少を前提にしない復興事業が進められたため、住宅整備地に空き地が目立つという誤算も生まれている。高齢化に伴い、高台が敬遠されるケースも少なくない。

 過酷な避難生活を強いられる被災者のニーズは年月とともに変化する。行政が目指す復興との温度差を埋めるためにも、復興の全体イメージについて、住民の基本的な意識を早くから把握しておくことが肝要だ。

 私たちは今、家族や故郷を奪われた人々の喪失感は10年たっても容易には癒えないことを、改めて思い知らされる。ある被災者の「心の復興が大切」という言葉を十分にかみしめたい。

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