米国人の突破力を信じて さらば「DC街角」

 「ノーマル(通常)の米国を知らずに帰るのは残念なことだが、刺激的だっただろ?」。2月末にワシントン支局勤務を終える直前、米国人の知人から声を掛けられた。残念という感覚は全くないが、25年の記者人生の中で最も刺激的だったのは間違いない。

 渡米したのはトランプ大統領(当時)就任の1カ月後。それから4年間、ニュースに事欠くことはなかった。トランプ氏を巡り世論が割れ、異なる意見を持つ相手を激しく敵視し、全否定する風潮がはびこる社会には失望もした。

 バイデン大統領は国民に融和を呼び掛け続けている。だが、実現の兆しは見えない。「バイデン氏を含めて政治の登場人物が同じままでは変わりようがない」。ある外交官の指摘にうなずくしかない。

    ☆   ☆

 閉塞(へいそく)感が渦巻く中、一部の国民にとって期待の星は、女性や黒人として初の副大統領になったハリス氏だろう。

 2月初旬の夜、ワシントンで彼女の写真を題材にした芸術作品が展示されていた。コロナ禍で街は閑散としていても、多くの若者や家族連れが集った。女性初の大統領が誕生し、混迷を打破してほしいという願いの表れだ。

 一方で「女性には任せられない」と抵抗感を抱く人も厳然と存在する。バイデン政権が主要ポストに女性やマイノリティー(人種的少数派)を重用したことに「男女や人種にかかわらず実力本位であるべきだ」(白人の男子大学生)と疑問を呈する声は、バイデン氏の支持者からも上がる。

    ☆   ☆

 米国で出会った人々、特に地方の工場労働者や農家などは、世界で最も豊かな国のはずなのに、身近で広がる格差や貧困の問題に打つ手がなく、政治にも希望を見いだせない現状を強く憂えていた。

 大統領選の結果を認めない暴徒による連邦議会襲撃も発生するほどの混乱ぶりに、超大国は衰退の一途だと改めて感じた人もいるだろう。

 それでも社会に関わり、何とかしようともがく人々が、米国にはあふれるほどいる。

 再燃した人種間対立を和らげようと、近所の白人に声を掛けて食事会を始めた黒人女性、移民差別解消を目指す市民活動にいくつも参加するアジア系男性会社員-。個々の活動は小規模でも、自ら何とか突破しようとする気概に触れるたびに勇気づけられた。

 日本に向けた出国の前夜、送別会を開いてくれた米軍関係者夫妻は、米国の将来を案じる私に笑って答えた。「大統領選では民主主義がねじ曲げられようとしたが、米国は壊れずに踏ん張った」

 分断社会の行く末は想像できないが、良心ある国民が何とか折り合いを付けるのではないか。そう信じて街角に別れを告げた。

(前ワシントン支局長 田中伸幸) =おわり

関連記事

PR

国際 アクセスランキング

PR