亡命ウイグル「避難先」で拘束相次ぐ トルコで中国の影響力拡大

 【海外リポートASIA】

 中国の弾圧から逃れ、トルコで暮らす亡命ウイグル族への圧力が強まっている。民族・宗教的に近いトルコは安全な避難先だったが、近年エルドアン政権は対中関係を重視。経済的な結びつきや新型コロナウイルスのワクチン供給を通して中国の影響力が強まっており、現地のウイグル族はオンライン取材に強制送還への不安を訴えた。 (川原田健雄)

安否が分からない家族の写真を掲げて中国に抗議するトルコ在住の亡命ウイグル族(関係者提供)

 トルコ最大の都市イスタンブールで暮らすウイグル族の男性は昨年11月、自宅に来た警察官に突然拘束された。「午前1時ごろ、銃を持った警察官がドアをこじ開けて家の中に入り、寝間着姿の男性を床に組み伏せた。一部始終を見ていた幼い娘は怖がって母親から離れられなくなった」。知人の女性が明かした。

 地元メディアは男性が「シリアのテロ組織に関わった疑いがある」と報道。男性は容疑を否定したが、入管施設に留め置かれ、約40日後にようやく釈放された。

 男性は中国の新疆ウイグル自治区出身。学生時代に中国当局に拘束された経験があり、トルコに逃れた後も、連絡が取れなくなった故郷の家族に危害が及ばないことを求めて街頭活動を続けていた。知人女性は「中国に批判的な活動をしたから捕まったとしか思えない」と憤る。

 新疆に住む妹が中国当局に拘束され、トルコ国内で抗議デモを続けるメディネ・ナジムさん(38)も「最近のトルコ政府の態度には不安を感じる」とオンライン通話で明かした。

 メディネさんの妹はトルコの大学を卒業し、トルコの市民権も持つ。母の看病のため故郷の新疆に戻った後、2017年に収容施設へ送られ、連絡が途絶えた。妹の拘束後、母は病状が悪化し他界したという。

 首都アンカラの中国大使館やイスタンブールの中国総領事館前では、安否の分からない家族の写真を掲げたウイグル族の人々が抗議デモを続けているが、デモ参加者の中にもトルコ当局に拘束される人が出てきた。メディネさんは「確かな証拠もなく拘束するのはウイグル人社会に動揺をもたらすだけだ」と非難する。

 亡命ウイグル族でつくる人権団体「東トルキスタン人権監視協会」によると、こうした拘束は昨秋から相次ぎ、中には政治活動に縁のない主婦も含まれるという。19年に拘束された亡命ウイグル族の女性は中央アジアのタジキスタンに送還された後、中国に送られたといい、第三国経由で中国に強制送還される懸念も高まっている。

 昨年11月には、中国当局に亡命ウイグル族の情報を流すよう“スパイ行為”を強要されたウイグル族男性がメディアに告発した後、イスタンブールで見知らぬ男に銃撃された。オンライン取材に応じた同協会のヌレッティン・イズバシャル事務局長は「中国が直接的、間接的に関わった可能性が高い。中国批判を続ける私たちが狙われてもおかしくない」と画面の向こうで険しい表情を浮かべた。

㊨「中国共産党はすぐに妹を解放せよ」と書いた紙を手に抗議するメディネ・ナジムさん

㊧母親の解放を訴える紙を掲げるジャウラン・シルムハンマドさん(いずれも関係者提供)

経済関係深まり弾圧批判一転

 トルコはこれまでトルコ系イスラム教徒のウイグル族を擁護し、中国の弾圧を批判してきた。09年に新疆で起きた「ウルムチ暴動」の際には、当時のエルドアン首相(現大統領)が中国を「ジェノサイド(民族大量虐殺)」と非難した。迫害から逃れたウイグル族を多数受け入れており、トルコには約5万人が住むと言われる。

 しかし、こうしたウイグル擁護の姿勢は近年陰りが見える。風向きが変わった理由の一つが経済だ。トルコにとって中国は主要な貿易相手国。アジアと欧州の間に位置するトルコは、習近平指導部が掲げる巨大経済圏構想「一帯一路」を支援し、自国の貿易拡大につなげたい考えだ。米国のトランプ前政権による関税引き上げ政策の影響で、相対的に中国との関係が深まった面もある。

 エルドアン大統領は19年に北京を訪問した際「(ウイグル族は)中国の発展の中で幸福な生活を送っている」と中国のウイグル政策を評価してみせた。昨年10月、国連総会第3委員会で米欧など39カ国がウイグルの人権問題に懸念を示す共同声明を出した際も、トルコは加わらず、中国への配慮をにじませた。

強制送還懸念「おびえて生活」

 トルコと中国が接近する中、注目されるのが17年に両国間で署名された犯罪人引渡条約だ。中国は昨年12月、全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会で条約を批准したと発表。国会での批准手続きが進まないトルコに、暗に圧力をかけた。条約が発効すれば「犯罪人」として中国に引き渡されかねないだけに、亡命ウイグル族は批准阻止に向けてトルコの与野党議員への働き掛けを強める。

 新疆に残る家族の安全を求めてイスタンブールで抗議活動を続けるジャウラン・シルムハンマドさんは19年、中国政府関係者から「エジプトの反中国組織とつながっているな。全てを自白したらおまえの家族と連絡を取ってもいい」と言われた。「エジプトなんて行ったこともない。犯罪人引渡条約が発効すれば、中国はありもしない罪をでっち上げて身柄の引き渡しを求めてくる」と警戒する。

 トルコが新型コロナのワクチン供給を中国に依存する点も、亡命ウイグル族の不安に拍車を掛ける。トルコ政府は中国の製薬大手、科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)が開発したワクチン5000万回分の購入契約を結んだ。しかし、中国からのワクチン供給は滞り気味だ。野党議員からはワクチンを人質に条約批准を迫られるのではないかとの懸念が漏れる。

 「ワクチン外交」を通して国際的な影響力の拡大を狙う中国。人権監視協会のヌレッティン事務局長は「ウイグル弾圧の実態を発信させないよう、中国政府は海外に住む全てのウイグル人を連れ戻そうとしている。トルコだけでなく、中東や中央アジアには強制送還におびえながら暮らすウイグル人が数多くいる」と述べ、中国の台頭に危機感を募らせる。

 「海外でも追い詰められているウイグル人の実態を世界に伝えてほしい。それが救い出す一歩になる」と真っすぐな目で訴えた。

 ウイグル族 トルコ系の民族で、大多数がイスラム教徒。中国では少数民族として新疆ウイグル自治区を中心に約1000万人が暮らす。漢族中心の抑圧的な政策に反発が強く、2009年7月には区都ウルムチで大規模暴動が発生した。中国政府は過激主義によるテロとして監視を強化し、近年は過激思想を取り除く名目で自治区内に「職業技能教育訓練センター」を設置。国連人種差別撤廃委員会は18年8月、最大100万人以上のウイグル族などが収容されたと報告し、人権侵害の懸念が強まった。トルコはウイグル族と民族・宗教的に近く、1950年代以降、亡命ウイグル族を数万人規模で受け入れてきた。現在も弾圧から逃れてきたウイグル族に対し、居住許可を出しており、推計約5万人が暮らす。日本ウイグル協会によると、日本には日本国籍を取得した人を含め約2000人のウイグル族がいるとみられる。

PR

国際 アクセスランキング

PR