あの日の春秋:もう一つの卒業式(2007年3月30日)

3月は別れの季節でもあった。卒業式と同じ数のさまざまな別れがある。先週の本紙投稿欄「こだま」に柏原中学校(福岡市南区)の卒業式が紹介されていた▼学校を訪ねてビデオを見せてもらった。「巣立ちの歌」「立ちの日に」を歌い、式次第が尽きたところで生徒会長が立ち上がる。「すみません、少し時間をください。校長先生が退職されます。最後の卒業生として…」▼校長には伏せていた“もう一つの卒業式”が始まった。手を引かれて壇上に上がった妻鳥幸子校長に感謝状を贈った。「時に厳しく、時にやさしく、教えてくださいました」。花束を贈り歌を添えた。207人の卒業生全員で歌った。♩仰げば尊し わが師の恩…▼校長は涙が止まらない。来賓席で目頭を熱くしたと「こだま」投稿者は書いている。卒業生の目にも光るものがあった。その日2度目のあいさつを妻鳥さんは「36年務め、つらいこともありましたが、教師をしてきてよかったと、きょうほど思ったことはありません」と締めた▼「仰げば尊し」で送ることを含めて全部、生徒会で話し合って決めたという。自分たちが送られる式で歌う歌と一緒に2週間かけて練習した。そんな話を先生から聞き、校長室をのぞくと-▼机の周りを整理しておられた。卒業式の翌日に1、2年生の何人もから「きのうの式、よかったですね」と言われたそうだ。校庭では桜が咲き始めていた。(2007年3月30日)

 論説委員から 新型コロナ禍で迎えた今年の卒業式。感染対策で規模を縮小しても忘れ難い晴れの門出だ。福吉中(福岡県糸島市)では、古藤浩二校長が「人生に無駄なことは一つもない。コロナ禍を乗り越えた中学生として、自信を持って一歩を踏み出してほしい」。卒業生の吉村紗希さんは「これから先、たくさんの困難に出合うかもしれないが、みんなの支えや思い出が後押ししてくれる。また会う日まで、別々の場所で頑張っていきましょう」と涙ぐんで。(2021年4月11日)

関連記事

PR

春秋(オピニオン) アクセスランキング

PR