映画化効果で絶版一転、増刷に 佐木さん「身分帳」

 北九州市ゆかりの作家佐木隆三さん(1937~2015)の長く絶版状態だった小説「身分帳」(講談社)が、公開中の映画「すばらしき世界」の原案となった効果で売れている。映画化を機に昨夏文庫で復刊され、3月上旬に累計10万部となる増刷が決まった。やくざ者の社会復帰の難しさを描いた小説が時を経て注目を集めている。

 佐木さんは直木賞受賞作「復讐(ふくしゅう)するは我にあり」など実際の犯罪を描いた小説や法廷ルポを得意とした。「身分帳」も、人をあやめた実在人物の来歴や犯歴を記した帳簿と本人への取材を基に執筆。罪と更生をテーマに、出所後に社会へ溶け込もうともがく姿に焦点を当てた。1990年代に講談社から単行本と文庫を刊行。伊藤整文学賞を受けるなど評価され、単行本と文庫で約6万部刊行されたが、20年以上新規流通がない状態が続いていた。

 主人公は福岡市生まれ。父親は分からず母親とも幼くして離別して不良となり、やくざ者への道を進む。10の犯罪に手を染め半生のほとんどを塀の中で過ごした。86年に44歳で旭川刑務所を出所。高血圧の持病を抱え、生活保護を受ける。けんかっ早い性格で周囲との衝突や挫折を繰り返すが、身元引受人の弁護士やケースワーカー、町内会長のスーパー店主らに支えられ改心して市井の人になろうと模索する。

 映画化した西川美和監督は佐木さんの死後「身分帳」を知り、引き込まれた。復刊本に寄せた文章で当時の心境をこう明かす。

 <こんなに面白い本が絶版状態にあるとは。世の中はなんと損をしているんだろう。そしてなんと私は幸運なんだろう。いっそこのまま誰の目にも触れないうちに、私がこっそり映画化する! --とその夜のうちに心に決めた>

 映画は時代設定を現代に変更。清濁併せのむ小説の世界観は受け継ぐ。主人公の兄弟分で暴力団組長の妻が銀行口座も開けないと吐露するなど、反社会的勢力とされる人々の今日的な苦悩もにじませた。

 復刊は西川さんの意向で実現。予想外の売り上げに驚く文庫化担当編集者の岡本浩睦(ひろちか)さんは「犯罪者は別の世界にいるのではない。勧善懲悪の二項対立とは異なる、さまざまな問いが込められている」と、現在の読者の心もつかむ理由を分析する。 (藤原賢吾)

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