崇拝者も疑心…タイ国王が王室財産を「独占」

 異例の王室批判が噴出した昨年来のタイ反体制デモ。矛先は「世界一裕福」とされる巨額の王室財産にも向かった。背景には、2016年のワチラロンコン現国王即位後の制度変更で、王室財産が「変質」したことがある。経済発展のけん引役でもあった王室財産がなぜ今、不信を招いているのか。現場を歩いた。(バンコク川合秀紀)

不動産や株式「4兆~5兆円」

 バンコクの日本大使館に近づくと土ぼこりがひどくなる。隣接地で事業費1200億バーツ(約4200億円)というバンコク最大規模の再開発計画「ワン・バンコク」の建設が進んでいるためだ。敷地約16ヘクタールは王室所有。ホテル5棟、オフィスビル5棟、高層マンション3棟、商業モールなどを計画し、リース期間は60年。王室側に支払われる賃貸料は公表されていない。

 バンコク都心の王室所有地で近年、同様の大規模かつ高級ブランドを売りにした再開発が相次ぐ。これに伴い、王室財産の価値と収入が高まっているのは間違いない。

 王室財産の運用管理を一手に担うのが「王室財産管理局」だ。1938年に設立され、政府機関ではなく法律上は法人。財産の詳細は公表されておらず、登記簿も確認できなかった。

 複数の調査や報道を総合すると、王室財産は4兆~5兆円規模と推定される。1932年まで続いた絶対王政期の名残である王室所有の広大な不動産がその中核となる。国内に約6500ヘクタール所有し、賃貸契約は約4万件に及ぶとされる。もう一つは株式。サイアム商業銀行などタイをけん引する大手企業数十社の大株主でもある。

 「ワン・バンコク」から約800メートル北西にある王室所有地に昨年全面開業したホテルやマンションなどの複合施設「シントーン・ビレッジ」も王室財産管理局が契約主体だ。施工は日本の大手ゼネコン大林組の子会社タイ大林。王宮関連施設を手がけた実績を持つ同社にも、同管理局が株式の10%を出資している。

 同管理局に約30年間勤務した元職員の男性は、以前も王室所有地での商業開発はあったと指摘する。一方で「国王が代替わりしてから利益重視のプロジェクトが急増し、国のためか(国王)個人のためかが分かりにくくなっている」と明かす。

王室所有地に建設された高級ホテルなどの複合施設。大林組の子会社が施工した=9日、バンコク

即位機に制度改正、個人名義に

 「王室財産管理局で働くことは誇りだった」。元職員は王室所有株式の管理のほか、ビルの老朽度や家賃支払い状況を確認する業務を担当した。当時の王室財産は法律で国王個人、王室全体、国など公的な財産の三つに分類されていた。

 やりがいを感じたのは、スラム地区の住宅や老朽化した市場の再開発、留学を志す学生への奨学金支給事業など弱者支援プロジェクト。「国の発展に尽くす仕事」という実感があった。だが16年、約70年在位して国の父と崇拝されたプミポン前国王が死去。「国王が代われば仕事のシステムは全て変わり、やりにくくなるかもしれない」。死去直前、退職を決断した。

 元職員の予想通り、ワチラロンコン国王即位後に約70年ぶりの制度改正が行われ、王室財産の在り方は一変した。18年、三つに分類されていた財産は国王個人名義に集約され、財産運用に関する全ての決定も「国王の意思によるもの」と変更された。国王に近いとされる軍幹部が同管理局首脳に相次いで就任。基本的な情報を紹介する同管理局の年次報告でさえも、前国王時代の16年分を最後に非公表となっている。

 元職員は今も職場に残る職員らとやりとりし、不満とあきらめを耳にする。だが国王の権威は絶対で、逆らえば不敬罪に問われかねない。「不透明な形で富を独占するような仕組みは賛成できない。そう思っている職員は多いが、具申できるはずがない」

 元職員は今、こう思う。「私はあのとき退職してラッキーだった」

 王室財産管理局 王室が持つ不動産や証券などの運用と管理を担う組織。元々は政府管轄として1938年に設立されたが、47年の王党派によるクーデター後に政府から独立した法人に変更された。ワチラロンコン国王即位後の2017~18年に約70年ぶりの制度改正が行われ、国王の影響力が増す形となった。素材大手サイアム・セメントや金融大手サイアム商業銀行などの筆頭株主だったが、18年にワチラロンコン国王個人名義に変更された。

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