香港の選挙制度 「愛国」で民意封じる暴挙

 「愛国」を名目に、体制に批判的な勢力を政治の舞台から完全に排除したいのだろう。香港の「高度な自治」を骨抜きにして民主社会を崩壊させる行為であり、断じて容認できない。

 中国の全国人民代表大会常務委員会が香港の選挙制度の変更を決めた。「愛国者による香港統治」と称した習近平指導部による統制強化の一環で、今後、香港政府トップの行政長官や立法会(議会)議員には当局が認めた「愛国者」以外は立候補できないようになる。

 現行でも親中派に有利な選挙制度だが、今回の変更は民主派の政治参加を実質的に阻むものだ。立法会議員には資格審査委員会を新設するとしつつ、具体的な判断基準は示していない。ただ「愛国」が共産党への忠誠を意味するのは明白だ。投票でも市民の直接選挙枠を減らすなど民意の反映を狭める一方的な見直しである。

 背景には一昨年、大規模な反政府デモが続き、区議選で民主派が8割超の議席を得る圧勝を収めたことがある。この勢いを警戒した中国政府は昨年、香港国家安全維持法を施行してデモなどの抗議行動を封じ込めた。

 それに続く今回の選挙制度の変更で、中国本土とは異なる高度な自治を香港に保障する「一国二制度」は有名無実となったに等しい。

 中国は香港の主権が英国から返還された1997年から50年間、一国二制度の適用を約束していた。憲法に当たる香港基本法は普通選挙導入を最終目標に定めている。民主派の要求もそれに沿ったものだ。

 共産党指導部には香港情勢が一党支配を揺るがしかねないとの危機感があるのだろう。ウイグル族など少数民族弾圧にもみられる、人権を踏みにじり国家や党の利益を優先する統治は国際的に理解を得られない。

 もっとも中国は欧米とは異なる自国流の民主主義があると主張する。しかし民主主義は言論の自由が保障され、公正な選挙によって示された民意を尊重する普遍的価値である。中国式がその精神から懸け離れていることだけは間違いなかろう。

 香港の民主派排除が看過できないのは中国一国で終わらない問題でもあるためだ。例えば、中国は国軍による市民への武力弾圧が苛烈なミャンマー情勢の改善に積極的ではない。隣国の民主化が自国に及ぼす影響を警戒しているとの見方もある。

 強権統治が世界で広がる事態は何としても食い止めたい。欧米のそうした懸念に中国は「内政干渉」と突っぱねず、真摯(しんし)に向き合うべきだ。日本も民主主義や人権の問題では譲らない姿勢を鮮明に示す必要がある。

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