ダムで沈む町、対立の歴史乗り越え「先祖の味残す」

 佐賀県神埼市に建設される城原川ダムの水没予定地で暮らす住民団体が、地元の伝統料理「さしみこんにゃく」を復活させた。昨秋から販売を始めたところ評判を呼び、市外からも買い物客が訪れるようになった。ダム建設の是非を巡る激しい対立を乗り越え、手を取り合った住民たち。団体代表の鶴田良治さん(73)は「土地はなくなっても、先祖伝来の味はみんなで守りたい」と話している。

 城原川上流にある同市脊振町広滝の岩屋、政所(まんどころ)の両地区。県道沿いのプレハブ小屋に車で訪れた同県伊万里市の60代の女性はこんにゃくを2個購入した。「ぷるぷるの食感が癖になる。最近のマイブームです」

 両地区には45世帯107人が暮らし、65歳以上が大半を占める。国が2030年度の完成を目指す城原川ダムの水没予定地で、住民は数年内に住み慣れた土地を離れなければならない。

 「立ち退きと高齢化が重なり、住民に生きがいが必要だと思った」。岩屋地区長でもある鶴田さんはこう語る。土地を手放す前に次の世代に何かを残せないかと考え、かつて各家庭で手作りしていたさしみこんにゃくの復活を思い付く。

 住民団体「岩政ハッピーサロン」を昨年10月に設立し、「脊振さしみコンニャク」を売り出した。

 こんにゃく作りは堤京子さん(68)ら3人が担当。干したコンニャク芋に稲わら灰と水を加えてミキサーで混ぜ、火にかけた後に冷やして固める。昨年に亡くなった堤さんの母直伝で、「親世代は庭でコンニャク芋を育て、盆や正月に各家庭で作って分け合い、違いを楽しんだ。スーパーで買えるようになってそれもなくなっていた」と話す。

 「工場のものよりやわらかいのが特長」で、ゆずごしょうで食べるのがお勧めという。

 60~80代のメンバー約10人が月2回、プレハブ小屋に集い、1個250円で販売。野菜も含め、月10万円を売り上げることもある。

 隣り合う両地区では長年、住民たちがダム建設を巡って容認派と反対派の2組織で激しく対立。すれ違っても世間話もせず、疑心暗鬼が広がった。冠婚葬祭の連絡も取り合わない時期が続いたという。

 転機は05年。県が下流域の環境にも配慮する治水専用の「流水型ダム」を国に提案し、地域振興策も示されたことで反対派も評価。昨年6月には住民組織を統合させた。

 国は21年度にもボーリング調査を終え、ダムの具体的な建設地を決める。立ち退きの時期は未定だが、堤さんは「今はみんな、笑ってばっかりで楽しい。じっと待ってても、将来は変わらんから」。鶴田さんも「引っ越した後も、みんなで集まってこんにゃくを作り続けたい」と話す。次回の販売は10日午前10時~午後3時(売り切れ次第終了)。

 (星野楽)

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