デジタル化法案 「個人の権利」守る熟議を

 社会のデジタル化には光と影がつきまとう。ただ、行政機関が個人情報を取り扱う際は不透明さがあってはならない。

 菅義偉首相の目玉政策であるデジタル改革関連法案が衆院を通過した。多くの懸念が残されており、これからの参院の審議では熟議を求めたい。

 法案は、首相をトップに国の情報システムを統括するデジタル庁の新設をはじめ、マイナンバーの利用拡大や押印が必要な手続きの削減、個人情報保護制度の見直しなど多岐にわたる。

 昨年来の新型コロナ禍で、行政サービスのデジタル化の遅れは国際的に見ても明らかになった。例えば、一律10万円の給付金のオンライン申請でトラブルが続出し、厚生労働省の接触確認アプリ「COCOA(ココア)」の不具合が長期間放置されていたことも記憶に新しい。

 デジタル化推進と国民の利便性向上は喫緊の課題だろう。

 それでも、菅首相が昨秋の自民党総裁選でデジタル庁設置を公約に打ち出して、わずか5カ月で閣議決定に至った法案である。添付資料に多数のミスがあり、内容にも粗さが目立つ。

 このまま成立すれば、これまでは自治体が独自に定めてきた個人情報保護条例に全国的な共通ルールが設けられ、「相当の理由」があれば行政機関が持つ個人情報の目的外利用もできるようになる。

 従来より大幅に踏み込んだ、国による監視や権限の強化につながりかねないものだ。専門家の中にも慎重論がある。

 さらに注意すべきは、法案は民間を含めてデータの利活用を進めて、新産業創出といった経済活性化の面に重きを置いていることだ。世界の潮流に遅れないことが肝要とはいえ、個人の権利をないがしろにする制度になってはならない。

 衆院審議のさなかに、無料通信アプリLINE(ライン)利用者の個人情報が中国で閲覧可能だった問題が判明した。3月下旬の予定だったマイナンバーカードを健康保険証として利用できるシステムの運用が、誤入力などで10月に延期される不手際も露呈した。

 法案と密接に絡む問題であるにもかかわらず、衆院の委員会審議は27時間余りにすぎず、懸念の解消には到底足りない。

 衆院では結局、法的拘束力のない付帯決議で、目的外利用の要件厳格化や個人情報保護委員会による監視などを求めるにとどまった。

 忘れてならないのは国民のデジタル技術への習熟度は千差万別である現実だ。人によっては紙の申請書を出すことさえ難儀している。情報弱者に目配りした議論を尽くしてほしい。

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