天神の求心力か、コロナ禍の遠心力か 「空前のオフィス供給」前夜

コロナ下の胎動㊤

 香港に拠点を置く金融グループ「MCPホールディングス」は、福岡市に日本事業の統括会社を置くことを決めた。

 市が官民連携で目指す「国際金融拠点都市」構想の誘致第1号。同社は九州の環境技術企業への投資や、先端ベンチャーの誘致などにも関わっていく考えだ。

 最高経営責任者(CEO)の越智哲生は、2月の発表記者会見に香港からオンラインで登場。「アジアとの共存を考えた際、福岡には地理的な近さなど場所としての魅力、面白さがある」と進出の理由を語った。

 市中心部の天神では、市の再開発促進事業「天神ビッグバン」のつち音が響く。第1号案件として福岡地所(福岡市)が建設中の「天神ビジネスセンター(BC)」。昨年秋、その3フロアを通販大手ジャパネットホールディングスが購入し、東京から本社の一部を移すことが発表された。

 天神ビッグバンは、老朽化が進む天神のビル群の建て替えを促すため、事業者に容積率や高さ制限緩和などのボーナスを与える仕組み。天神BCに隣接する福岡ビル街区や、西側の旧大名小跡でも工事が進む。

 市は最新の高規格ビルが次々と完成するのに合わせ、グローバル企業や大手企業の本社機能を呼び込み、一気せいに地元経済の「バージョンアップ」を狙う。

平均空室率は「目安」に迫る4・02%

 市のもくろみの一方、足元では新型コロナウイルスの影響による静かな「オフィス縮小ドミノ」が進む。

 「お久しぶり。直接会うのはいつ以来だっけ?」

 「半年ぶりかな。なんだか懐かしい感じ」

 福岡市東区のコカ・コーラボトラーズジャパン福岡オフィスでは、こんな会話が珍しくなくなった。新型コロナの感染拡大で、昨年3月から内規で“原則出社禁止”に。ほぼ全面的にリモートワークに移行した。

 1フロアに100人以上いたオフィスは、最近でも人影はまばら。出社するには事前に上司の許可が必要で、出社率は10分の1になった。同社は昨年末、合併前の旧コカ・コーラウエスト本社だったこのビルを売却し、賃貸に切り替えた。

 近年は満室が続いていた天神に近い薬院地区のオフィスビル「薬院ビジネスガーデン」でも、入居企業のオフィス縮小に伴い約1300平方メートルの新規募集が出た。

 オフィス仲介の三鬼商事によると、市中心部のオフィスビルの平均空室率は、2019年6月末に1・79%まで下がったが、足元では4・02%まで上昇。好不調の目安と言われる5%が迫る。


天神ビッグバンの第1号案件となる天神ビジネスセンター=福岡市・天神

脳裏をよぎるリーマン・ショック

 不動産サービス大手シービーアールイー(CBRE)によると、天神ビッグバンの再開発ビルを中心に、市内では今年から25年ごろにかけ、約30万平方メートルという「前例のない規模」(関係者)の新たなオフィス供給ラッシュを迎える。

 地元関係者の脳裏をよぎるのは、08年に世界経済を襲ったリーマン・ショックだ。当時も不動産市況は活況で、リーマン危機と前後して約20万平方メートルの新規オフィスが市内に供給された。だが、市況は一変。空室率は15%を超え、新築ビルも埋まらない状態に陥った。需給が崩れ、賃料下落が連鎖した苦い過去がある。

 不動産関係者の間では、地元に精通していない外資ファンドが一等地からやや外れた立地で開発に走った当時と、天神のど真ん中で地元のプレーヤーが開発主体となる天神ビッグバンは違うとの見方が強い。

 天神の求心力と、コロナ禍の遠心力。どちらが強く働くのか―。

 試金石とみられているのが、9月に完成する天神BCだ。賃料は市内最高値の3・3平方メートル当たり3万円とされる。コロナ禍でも強気な設定の賃料を負担できる企業は限られる。天神BCのテナント誘致の成否が、ビッグバン全体のすうを占う-。関係者はかたをのんで見守る。

(敬称略)

 「天神ビッグバン」は街の在りようや地元経済に大きな変化をもたらす。「日本一元気な街」から「アジアのリーダー都市」へ―。ビッグバンを推進力に、福岡市が飛躍を期すさなか、コロナ禍が襲った。大型再開発の現状を追う。

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