原発処理水海へ 強行せずに説明を尽くせ

 関係者の理解なしにいかなる処分も行わない。あの約束はどうなったのか。地元の漁業関係者が反発するのは当然だろう。

 事故を起こした東京電力福島第1原発で増え続ける放射性物質を含む処理水について、政府は希釈して海洋放出する方針を決めた。2年後をめどに着手するよう準備を進めるという。

 周辺の人々の暮らしに重大な影響を及ぼす決定である。にもかかわらずここに至るまで、関係者の理解を得るための幅広い議論や丁寧な説明が十分に積み重ねられたとは言い難い。

 政府の決定とはいえ、このまま強行は許されまい。今後も説明を尽くし、国民に理解と納得を求める努力を続けるべきだ。

 第1原発の1~3号機では、溶け落ちた核燃料(デブリ)の冷却と地下水、雨水の流入により、放射性物質を含む汚染水が大量に発生する。汚染水は多核種除去設備(ALPS)で浄化処理した後、敷地内のタンクに保管している。量は増え続け、来年秋以降に約千基のタンクが満杯になる見込みという。

 政府と東電によると、廃炉作業を進めるためには、これ以上のタンク増設は難しい。これが海洋放出を急ぐ理由だ。

 処理水にはALPSで除去できない放射性物質トリチウムが大量に含まれる。トリチウムは自然界にも存在し、国内外の原発からも放出されている。基準以下に薄めて放出するため、科学的な国際標準からも問題はないとしている。

 ただ処理水はトリチウム以外の放射性物質も完全に除去できているわけではない。消費者の受け止めはさまざまだろう。

 政府は、風評被害の最大限の抑制や産業の振興に向けて前面に立つという。それでも事故から10年間、福島県産の農水産物は風評被害を受け続けてきたのが実情だ。海洋放出によって事態が悪化すると地元が不安に思うのは仕方あるまい。

 この不安の根っこに、福島原発事故を巡る政府と東電の取り組みに対する不信感がある。これを関係者は自覚すべきだ。

 同時に、事故後30~40年での廃炉完了を目指す現在の中長期ロードマップも見直しが必要だろう。一般の原発でも廃炉には30年かかるとされるのに、深刻な事故を起こし内部状況も分からない第1原発の廃炉が30年後に完了するとは考えにくい。

 放射線量が高いデブリを取り出す見通しも立たず、処分先も未定だ。現状のまま長期管理し放射線量の低減を待つのも選択肢と訴える市民団体もある。

 実現性が乏しい40年廃炉の前提には縛られず、廃炉への道筋を再検討し、廃炉後の姿まで描き直すよう政府に求めたい。

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