家族6人の命支えた「おやじの木」 遺族代表の冨岡謙蔵さん

 熊本県嘉島町の冨岡謙蔵さん(58)は5年前の熊本地震本震で自宅が全壊し、同居していた父王将さん=当時(83)=を亡くした。家族6人を救ったのは、父が育てた松とカシ。倒れた木造2階建ての家が2本の木にもたれ掛かったことで、わずかな隙間から逃げ出すことができた。「支えてくれた人たちに感謝を伝えたい」と、遺族代表として臨んだ14日の犠牲者追悼式。「父に救われた命を決して無駄にはしない」と決意を新たにした。

 冨岡さんは30歳を過ぎた頃、王将さんから造園業を引き継いだ。

 「父は農業を営む傍ら、孫たちの世話を楽しんだり、積極的に地域の行事に参加したりと、充実した日々を過ごしていました」

 2016年4月16日未明、1階に寝ていた冨岡さんは激震で目が覚め、とっさに当時小学生だった息子たちに覆いかぶさった。

 「崩れ落ちた天井と床の間にできたわずか1メートルほどの隙間のおかげで、奇跡的に無傷で、九死に一生を得ました」

 妻と母も無事だったが、1階の別室で寝ていた王将さんがいない。「おやじ! おやじ!」。何度も呼び掛けたが返事はなかった。明け方になって王将さんは救出されたが、既に息絶えていた。

 倒壊した家を見ると、玄関先の松とカシの木に寄り掛かっていた。

 「1階が完全につぶれなかったのは、父が丹精込めて育てた2本の木が支えとなってくれたからです。私たち家族は『父が命を守ってくれた』と思っています」

 救われた命を無駄にはしない-。数カ月後には仕事を再開。18年7月に元の場所に自宅を建て直した。前の自宅を建てた50年以上前、王将さんが「家の前には木を植えるもんだ」と苗から育てた“おやじの木”は、今も同じ場所で家族を見守る。

 父の代からの得意先で庭の剪定(せんてい)をしていると、最近は「お父さんに似てきたね」と言われることも。父に恥じない仕事をしようと気が引き締まるという。

 追悼式後、冨岡さんは「家族を守るために前に進んでいく姿を、父には見守ってほしい」と穏やかな表情で語った。 (西村百合恵)

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