老舗宿5年ぶり再起の一歩 ライバルに支えられ日帰り湯に転換

 明治時代に創業し、熊本地震の本震で被災した熊本県南阿蘇村の垂玉(たるたま)温泉「山口館」が16日、日帰り湯「瀧日和(たきびより)」として再出発した。5年ぶりの営業再開。悩んだ末、老舗宿の看板はいったん下ろして業態を転換した。苦しい日々を支えてくれたのは、同じように被災し、再起へ向かう村の同業者たちだった。

 山口旅館は1886(明治19)年創業。本震による土砂崩れで孤立し宿泊客や従業員はヘリで救助された。旅館は約70年前にも水害に遭っており、8代目の山口雄也さん(40)は防災と経営の両面から熟慮を重ね、日帰り施設の道を選んだ。

 山口さんの相談相手となり、「思い切ってやってみたら」と声を掛け続けたのは増田一正さん(45)。地震前、崩落した旧阿蘇大橋のたもとでレストラン「マルデン」を経営。店を新築移転し、3月から本格営業を始めた。山口さんと度々話したのは「阿蘇のぶっちぎりの価値は何か」。新型コロナ禍に対応し、雄大な自然の恵みをいかに生かすか。新時代の観光を語り合ったという。

 近くの地獄温泉「青風荘」の同じ8代目、河津誠さん(58)は「切磋琢磨(せっさたくま)するライバルがいてこそ」と励ました。ともに江戸時代の湯治場が原点。壊滅的な打撃を受けた青風荘も3月、念願の本館が完成し、今月から本格営業を始めたばかり。河津さんは「新たな伝統の始まり」と話す。

 村内にある九州のペンション村の先駆け「メルヘン村」。6軒のうち5軒は業種転換か廃業した。「風の丘野ばら」を5月に再開する栗原有紀夫さん(56)は「一時は廃業も考えたが、仲間たちが熱く観光を語る姿にスイッチが入った」という。

 垂玉温泉の源泉は滝つぼにあり、「瀧日和」には「滝の恵みで生まれた温泉に人が集まってほしい」との願いを込めた。旅館跡地に建つ入湯施設を中心に、屋内外でくつろげる「広場」のような造り。初日は常連客たちが朝から訪れた。山口さんは「たくさんの人の支援があり、新たな出発点に立てた。感謝の気持ちでいっぱいです」と話した。 (佐藤倫之)

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