邦人記者拘束に思う「現場」の重みと非情 バンコク・川合秀紀

 ミャンマーで取材を続ける邦人ジャーナリスト北角(きたずみ)裕樹さん(45)が2月末に続き、再び国軍当局に拘束された。理由は虚偽情報を広めた疑い。北角さんに寄稿を依頼し、今月1日付本紙に掲載した生々しい現場ルポも「虚偽情報」の一つとされたのかと思うと、言いようのない憤りと自責の念を感じてしまう。

 新型コロナウイルス問題に加えクーデター発生により、メディアの入国が極めて難しいミャンマー。今月初め、米主要メディアCNNの一行が現地入りし「外国メディア初の現地取材」と大きく報じた。だが当局の許可と監視の下であり、もっと言えば自身の正当性を訴えたい国軍のPRに乗っただけ-。他のメディアや会員制交流サイト(SNS)上ではそんなCNN批判が相次いだ。

 自分たちは軍当局に守られながら「勇敢な取材」と自画自賛を続ける放送を見て、私もへきえきとしていた。だが、北角さんはある英字メディアの取材に「現場に入る努力も勉強もせず書く記者もいる中で(現場に)入って報道したことに意味がある」と答え、CNNの取材を前向きに捉えようとしていた。厳しい統制下、手段や名目はともかく「現場」から少しでも事実を伝える重要さを訴えたかったのだと思う。

 クーデター以前のアウン・サン・スー・チー政権に対しても、北角さんは手厳しかった。表現や集会の自由が制限されている実態や、少数民族和平が進まない背景などをニュースサイトなどで報じていた。2019年10月、最大都市ヤンゴンでの取材を調整してもらった際も、一般市民から著名な民主活動家まで幅広い人脈に舌を巻いた。14年からミャンマーに住み、現場を大事にしてきたたまものだろう。

 「あまり知られていない穴場があります」。北角さんの勧めでヤンゴンのある民間博物館に同行した。07年の反軍政デモ取材中に射殺された邦人ジャーナリスト長井健司さんや、犠牲になった民主活動家たちの写真が並ぶ中、旧軍政下から多くの政治犯を収容してきた弾圧の象徴「インセイン刑務所」を紹介する展示が目玉だった。

 狭く暗い独房、豆と野草の味のないスープ、足輪をはめ中腰姿勢を強いた拷問…。北角さんは私以上に、スー・チー政権でも続く政治犯の収容や刑務所内の劣悪な待遇などをしつこく取材していた。1年半後の今回、自宅で拘束された北角さんはこの悪名高い刑務所に移送された。

 民主主義、そして報道に不可欠な「フェアネス(公平さ)」を地で行くジャーナリストだからこそ、当局の標的にされたのか。これも「現場」というにはあまりにも酷だ。 (バンコク川合秀紀)

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