「理想より発展」基地との共存選んだ元村長 沖縄激戦の伊江島 

【防衛マネーの正体】

 沖縄本島北部にある伊江島(沖縄県伊江村)。本部町からフェリーで30分、島に降り立つと赤瓦が目を引くターミナルに迎えられる。特産物販売所やレストラン、ホールも備える大型複合施設は、人口約4400人の過疎化にあえぐ離島には不釣り合いのようにも見える。

 「米軍基地を引き受けたから造れたんですよ」。施設2階の応接室でソファに腰掛け、島袋清徳(せいとく)さん(83)は話し始めた。

 1989年から4期16年村長を務めた。米軍伊江島補助飛行場の全面返還が現実味を帯びる中、「島の将来のため」基地との共存を決断。負担の代償として、国から交付金や補助金を引き出してきた。ターミナル施設は2003年、国費24億円超を投じて建設した。

 島は「沖縄の縮図」とも形容される。旧日本軍が「沖縄防衛の砦(とりで)」として飛行場を建設、米軍の標的になる。6日間の激しい地上戦で村民4千人のうち1500人が犠牲になった。

 米軍は土地を強制接収し、島の3分の2を軍用地が占めたこともある。村民は基地反対闘争を展開。そのうねりは、沖縄全体に広がり「闘争の原点」といわれる。

 あれから約70年。島は海洋進出を強める中国を念頭にした、米軍の離島奪還作戦の重要訓練地になった。 島袋さんは伊江島の地上戦で兄と祖母を失った。戦後は、村民ら100人以上が犠牲になった米軍弾薬輸送船の爆発事故も目の当たりにした。基地を抱える危険性は身をもって経験している。「共存する道を選んだのは、島の発展のため。苦渋の決断だった」。声を絞り出した。 

米軍基地受け入れの決断は「間違いなかったが、葛藤は今もある」と語る島袋清徳さん=3月22日、沖縄県伊江村

増える米軍訓練、遠のく返還

 米軍基地との共存の道を選んだ沖縄県・伊江島は、東部の中心市街を外れると特産の葉タバコや島らっきょう、サトウキビの畑が広がる。周囲22キロほどの島で目につくのは公共施設の充実ぶりだ。

 農業用ため池、村立の診療所や歯科医院、ごみ処理施設、ゴルフ場…。全て米軍基地関連の国の予算で造られた。「八つある集落の公民館も防衛(省)のお金で造りました」。2005年まで16年間村長を務めた島袋さんはこう振り返った。

 19年に完成した県内初の全面人工芝の野球場や、建設予定の体育館も米軍基地の“恩恵”だ。「『アメ』という言葉は好きではない。皆さんが嫌がる米軍基地を受け入れた当然の権利ですよ」と語気を強める。

 沖縄戦で焦土と化した島は戦後、米軍の「銃剣とブルドーザー」で土地を奪われる。「基地のない平和な島づくりが理想さ。でも村長になると、将来を考えないわけにはいかない」。最初の大きな決断は村長就任直後の1989年、米海兵隊のハリアー垂直離着陸機の訓練場受け入れだった。

沖縄戦の激しさを今に伝える村指定史跡の公益質屋跡=3月24日、沖縄県伊江村

 空軍が管理していた伊江島補助飛行場は76年、移設条件付きで日米両政府が全面返還に合意。村助役だった80年代後半には「実際に返還される話もあった」。

 ところが89年、防衛施設庁(現防衛省)から「空軍は返還すると話しているけど、海兵隊が使いたいと言う。認めてほしい」と要請される。国が訓練場を置く方針だった沖縄本島北部の国頭(くにがみ)村は、地元の反対で断念していた。

 沖縄の基地反対闘争の原点といわれる島でも反発の声が上がる。島袋さんも「基本的には反対」との思いがあった。一方で、村全体を見渡せば「財源が乏しく、産業ももろい離島」の現実が横たわる。「基地を返還すると村民の生活が立ち行かない。批判を受ける覚悟で容認をした」

 99年には沖縄本島中部にあった米軍読谷(よみたん)補助飛行場返還のため、パラシュート降下訓練の移転も受け入れる。公共施設の整備や医療費助成など国の財政補助が条件だった。在任期間の基地関連収入は、特定防衛施設周辺整備調整交付金(特防交付金)などで140億円以上に上る。

 「防衛マネー」を活用して農地整備も進めた。就任当初、1戸当たり約430万円だった農業生産額は退任時、約770万円に増えた。いまも村の歳入の1割前後は国からの基地関連収入が占める。「当時思い描いた村の基盤づくりはしっかりとできた」

 ただ、島の基地化は加速する。米軍は2018年に強襲揚陸艦の甲板に見立てるため滑走路を改修。最新鋭ステルス戦闘機F35Bの離着陸訓練が始まり、騒音は悪化した。輸送機オスプレイは昼夜を問わず低空飛行し、離島奪還作戦のための大規模訓練も行われる。

 村長在任中にあった唯一の返還のチャンスを逃したのではないか。その問いかけに数秒沈黙し、こう答えた。「決断は間違いなかったと信じているけど、その葛藤は今でもありますよ」

(高田佳典)

のどかな風景が広がる伊江島。写真奥に米軍伊江島補助飛行場があり、最新鋭ステルス戦闘機F35Bが離着陸する=3月23日、沖縄県伊江村

 

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