慰安婦問題、外交解決促した韓国司法 関係改善は不透明

 元従軍慰安婦らが日本政府に賠償を求めた訴訟の判決で、ソウル中央地裁は原告の訴えを却下し、韓国政府に日本政府との外交的な解決を促した。文在寅(ムンジェイン)政権も対日関係の修復を図る構えを見せるが、任期約1年を残して政権のレームダック(死に体)化が現実味を帯びつつある。原告らを説得した上で、日本が受け入れ可能な解決案を示すのは困難との見方が根強い。

 「今回の判決は、日本政府に賠償を命じた1月の判決について文大統領が『困惑した』と表明したことや、世論の政府、与党離れと無関係ではないだろう」。韓国の法曹関係者は、そんな見方を示す。

 文政権は昨秋、日米韓の安全保障協力を重視するバイデン米政権の発足が確実になって以降、日本との関係改善を模索。1月の地裁判決後は、かねて批判してきた朴槿恵(パククネ)前政権が2015年12月に結んだ日韓の慰安婦合意を「両政府間の公式合意と認める」と軌道修正した。今回の判決は文政権の意向を酌む内容といえる。

 背景には文政権に対する世論の変化がある。20年5月、革新系の文政権との関係が深い慰安婦支援団体で不正会計疑惑が浮上。不動産高騰問題や経済格差拡大への不満もあり、政権の支持率はかつてない低迷が続く。今回の判決は、政権や与党に近い原告代理人らの主張が以前ほど世論の共感を呼ばず、民意に敏感とされる韓国の司法も原告の訴えを却下しやすかったとの見方がある。

 ただ、判決が日韓関係の改善につながるかは不透明だ。文氏は18年10月の元徴用工訴訟判決以降、一貫して「司法判断を尊重する」と主張。今回の原告が控訴すれば、文政権が上級審の判断を待つ立場を取り、22年5月の任期まで事態を事実上傍観する可能性もある。

 韓国国内では、東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出決定に対する批判が激しさを増しており、文政権が対日姿勢を再び硬化させる兆しがある。文政権が南北対話再開の舞台にしたかった夏の東京五輪に北朝鮮が不参加を表明したことも、文氏の日韓関係改善の意欲をそぎかねない。

 一方、日本側は今回の判決を歓迎する。「これまで貝みたいだった韓国の対応が少し開くかもしれない。まだ他の裁判もあり安心できないが、流れが変わるきっかけになればいい」と日本政府関係者は期待する。

 ソウルの日本外交筋は、仮に文政権後に保守政権が誕生して歴史問題で合意しても、将来再び革新政権にひっくり返されると懸念する。「革新の文政権のうちに歴史問題を解決したい。あまり時間はない」と焦りの色をにじませた。 (池田郷=ソウル、古川幸太郎)

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