「元慰安婦」判決 「日韓合意」土台に前進を

 ソウル中央地裁が日本政府に賠償を求める元従軍慰安婦の女性らの訴えを却下した。国際法の観点から常識的であり、日韓双方のこれまでの取り組みを踏まえた妥当な判決である。

 国際法の原則とされる「主権免除」の扱いが焦点だった。判決は、国家には他国の裁判権が及ばないとするこの原則を適用し、日本政府を相手取った訴訟は成り立たないと判断した。

 注目すべきなのは、慰安婦問題で両国政府が「最終的かつ不可逆的な解決」に達した2015年の合意の評価に踏み込んでいる点だ。

 この合意は、日本が「軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」と責任を認めて資金を拠出し、韓国が元慰安婦支援の財団を設立することが柱だった。双方が財団の事業に協力すると確認していた。

 判決は、多くの当事者が財団から現金を受け取ったことを考慮し、事業が元慰安婦の「救済手段」になったと認定した。

 さらに、韓国政府が国内調整や日本との外交交渉によって問題解決を図るよう求めた。

 日韓関係の重要性を大局的にみて、現実的な折り合いを付けるよう韓国政府に求めたものと受け止めたい。問題は、文在寅(ムンジェイン)大統領に事態を前進させる明確な意思が見えないことだ。

 最近の文氏は日韓関係を重視するバイデン米政権の意向を酌み、対日批判を抑制している。日本政府に賠償を命じた1月の別の元慰安婦訴訟判決について記者会見で「困惑する」と語った。15年の合意を「両国間の公式合意」と認め、それを土台に解決を図るとも表明している。

 そもそも前政権の合意を一方的に「不十分」と批判し財団を解散させるなど、文氏が問題解決を後退させた責任は重い。当事者の高齢化を考えても、一刻も早く収拾に動く時だろう。

 任期が1年余となった文氏が大胆な決断に踏み切るのは厳しいとみられる。少なくとも対日関係の安定に努めてほしい。

 日韓は国交正常化以降、最悪の関係に陥ったままだ。近年、歴史認識問題の対立が経済、安全保障など他分野に波及するようになった。さらに東京電力福島第1原発処理水の海洋放出の方針に韓国は反発している。

 日本側の姿勢も対話に背を向けており、気掛かりだ。茂木敏充外相は1月に着任した韓国の駐日大使との面会や2月に就任した韓国外相との会談にまだ応じていない。

 関係を改善し、地域の緊張を高める中国や北朝鮮に連携して対処することこそ日韓の望ましい姿ではないか。日本は意思疎通を絶やさず、合意の履行を粘り強く求めていくべきだ。

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