お父さん、シャッターチャンスだよ 16歳、天国に語りかけ走った聖火リレー

 「少しだけ泣き虫が治ったよ」。九州・沖縄で初日となる東京五輪の聖火リレーが大分県でスタートした23日、大分県日田市の東京五輪の聖火ランナー、山本晃菜(ひな)さん(16)は、4年前の九州豪雨で亡くなった父の岳人さん=当時(43)=に語り掛けていた。「ひーちゃん」と、いつも気に掛けてくれていた父への思いを胸に走り抜けた200メートル。カメラが趣味だったお父さんが天国から撮っていると信じながら。

 3人の子宝に恵まれ、子煩悩だった岳人さん。2017年の九州豪雨で、生まれ育った同市小野地区で起きた大規模土砂崩れに巻き込まれた。消防団員として地区を見回っているさなかだった。

 ガソリンスタンド勤務で忙しいのに、よく家族旅行に連れて行ってくれた。山本さんの旅先での思い出は、お気に入りの一眼レフカメラをのぞき込む父の姿。ある旅先では会話そっちのけで月の写真を撮っていた。「ひーちゃん、見てみい」。月はまん丸で、くっきりとウサギがもちをついていた。

 運動会も必ずカメラ持参で応援してくれた。山本さんはスポーツは苦手で、いつもかけっこは最下位。家に帰ると、頭をなでながら「いいのが撮れたわ」と、髪をボサボサにして走る山本さんの写真を見せてくれた。車の整備をしていた手は厚くてざらざら。その温かい感触は今も残っている。

 山本さんは昨春、同県竹田市の高校に進学。寮で1人暮らしを始めた。中学までは姉や弟、友人らとけんかしては泣いていたが「最近はぐっと我慢して、少し泣かなくなった」とはにかむ。

 聖火ランナーには、日田市が推薦した「チーム日田」の10人のうちの1人に選ばれ、週1回の帰省時に愛犬「こまち」と一緒に走りながら本番に備えてきた。

 待ちに待ったこの日、伴走した母佳代さん(42)らと一緒にゴールした。「あんなに泣いてた子が強くなったんだよって姿を見せられた。聖火を持ってゆっくり走ったので、お父さんも絶好のシャッターチャンスだったと思う」

 晃菜さんを一番心配していたお父さんには最高の一枚が届いたに違いない。

 (中山雄介)

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