入管法改正案 多文化共生の理念どこに

 外国人の収容や母国への送還のルールを見直す入管難民法改正案の審議が衆院で始まった。

 政府が掲げる「多文化共生」の理念に合致する改正案とは言い難い。国内外から長年、閉鎖的と批判されてきた入管行政の実態を直視し、再考すべきだ。

 不法滞在などで摘発されても帰国を拒む外国人(送還忌避者)が近年増加している。昨年末時点で約3100人に上り、入管施設での収容が数年に及ぶ事例もある。改正案はそうした状況の解消が目的とされる。

 まず目を引くのは、忌避者に期限を定めた国外退去の命令を下し、応じない場合は刑事罰を科す点だ。難民認定を申請すれば送還が一時的に停止される現行制度も改め、申請は原則2回までとし、3回目以降は送還の対象とする。

 他方、難民に準じて人道上の観点から在留を認める「補完的保護」や、弁護士らの監督下で施設外での生活を認める「監理措置」などを新設する。所管の法務省は、これら硬軟を取り交ぜた改正案が成立すれば、入管行政は適正化されるという。

 これに対し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や日弁連、外国人支援団体などから強い懸念や反対の声が上がっている。補完的保護などの新設は一歩前進とはいえ、例外的に滞在を認める既存の在留特別許可仮放免の延長にすぎず、改正案全体としては送還の徹底に主眼があると言えるからだ。

 日本の入管行政は難民認定の少なさに加え、身柄収容の可否が裁判所の審査を経ずに法務省の裁量で決められる点が問題とされる。国際標準に照らして人権上の配慮に乏しく、手続きの公正さや透明性を欠く。にもかかわらず、この点の是正が見送られたことも看過できない。

 重要なのは不法滞在の背景に目を向けることだ。外国人技能実習生が劣悪な労働環境に耐えかねて失踪する例は後を絶たない。帰国すれば身に危険が及ぶ不安があったり、家族が日本で暮らしていたりして送還を拒む人も少なくない。新型コロナウイルス禍の中、職を失って困窮する外国人も増えている。

 野党は、難民の認定審査を行う独立行政委員会の設置や収容の可否を裁判所が判断する仕組みを柱とした対案を共同で提出している。政府、与党はこうした案も参考に、入管行政の抜本的な改革を図るべきだ。

 安倍晋三前政権が「多文化共生」に向けて旧入国管理局を改組し、外国人支援業務も担う出入国在留管理庁を設置し今月で2年になる。日本社会をさまざまに支える人々の境遇は改善されたのか。政府は自らの取り組みの検証も忘れてはなるまい。

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