入院中の会えない妻へ見せた5文字のエール 「コロナも絆壊せない」

 大切な人に面会できない-。1年以上続く新型コロナ禍で、各地の病院や高齢者施設では感染防止対策のため、面会の制限が続いている。がんで初めて手術を受ける妻に会えず、どうにかして励ましたいと悩んだ夫は、150メートル離れた病室の窓に向けて“5文字”のエールを送った。

 福岡市の熊部裕則さん(64)は、大学時代に知り合った由貴子さん(63)と結婚して38年。「面白くないおやじギャグも笑ってくれるんです」。自慢の妻だ。

 昨年12月、由貴子さんは微量の出血に気付いた。2015年に義姉をがんで亡くしており、念のため検査すると子宮体がんと判明。2月26日に九州がんセンター(同市南区)に入院した。センターは昨年3月から面会禁止となっていた。

 由貴子さんから裕則さんへ、無料通信アプリLINE(ライン)を通じて、見慣れない公園の写真が届いたのは入院翌日のこと。6階の病室から撮影したとみられ、黄色の滑り台が写っていた。「手術前に、滑り台で遊ぶ孫を見たいんだろうなぁ」。ビデオ電話で励ましてきたけれど、寂しさと3日後に控えた手術への不安が伝わってきた。

 何かできないか。「サプライズ好き」の血が騒いだ。調べると、写っていたのはセンターに隣接する野多目北公園と分かった。28日午後に公園へ。滑り台に上ってスタンバイし、LINEで「滑り台を見て」と送った。

 10分ほど待つも「既読」が付かない。公園にはほかの利用者もいて、1人で滑り台を占拠している状況を考えると寒いのに顔が赤らむ。電話をかけると、シャワーを浴びた直後の由貴子さんにつながった。

 「滑り台を見てっ」

 150メートル先に見える幾つもの病室の窓。由貴子さん以外にも公園を見つめる人がいた。「みんな、引き裂かれているんだ」。闘病生活を送る全ての人に届くようにと願いながら、A4サイズの紙5枚に赤い文字を1字ずつ印刷したメッセージを頭上に掲げた。

 <がんばれ!>

 由貴子さんは窓際でほほ笑みながら、サプライズを動画に収めた。後で裕則さんが映像を見ると、滑り台で体を左右に動かす姿に「見えたよ、ありがとう」とつぶやく声が入っていた。

 手術は成功し、3月9日に退院。その後の検査では転移も認められなかった。由貴子さんは「夫や友人、笑顔で支えてくれた医療従事者に感謝の気持ちでいっぱい」と振り返る。

 夫婦の場合は約2週間の出来事だったが、長い療養生活を、大切な人に会えないまま過ごしている人もたくさんいる。その気持ちを思うと胸が締め付けられると語る裕則さん。今回の行動が誰かの笑顔につながるならばと、本紙の「あなたの特命取材班」にエピソードを寄せてくれた。「コロナは人を隔てる病気だけど、絆は壊せない」。そう信じたい。 (小林稔子)

 コロナ禍の面会制限 厚生労働省は昨年4月、高齢者施設を含む福祉施設の面会について「緊急やむを得ない場合を除き制限すること」との通知を出したが、同年10月に「管理者が制限の程度を判断する」と緩和した。一方、医療機関に関しては「必要な場合には一定の制限を設けること」として、一貫して施設側に判断を委ねている。現状では感染防止の観点から、全面的に面会禁止とする病院や施設が多く、ビデオ通話などを取り入れた施設もある。

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