久留米市の自衛官刺殺事件から21年 遺族、情報求め毎年ビラ配り

 福岡県久留米市日吉町で自衛官の切明(きりあけ)信行さん=当時(27)=が何者かに刺殺された事件から21年がたった。犯人が見つからない中、信行さんの家族は目撃情報を求め、久留米警察署と合同で毎年3月11日に、西鉄久留米駅前でビラ配りを続ける。「弟の名前や事件名をネットで検索すると、年がたつごとに検索順位が下がっていく。忘れられていくのがつらい」。姉の恵美さん(50)を突き動かすのは、事件の風化を防ぎたいとの思いだ。

 恵美さんがビラ配りへの参加を始めたのは、母千代香さんが亡くなった後の2年前から。それまでは取材を受けることもビラ配りも避けてきたが、母の思いを継ぐ形となった。

 信行さんとは2歳違い。優しい両親とともに仲の良い4人家族だった。事件前日の10日は家族そろって父静馬さんの誕生会をする予定だった。ただ、信行さんの同僚の急な送別会が入ったため、誕生会は1週間延期になっていた。

 10日夕、信行さんは自宅から送別会に出かけた。「姉ちゃん、行ってくるばい」。居間にいる恵美さんにわざわざ声をかけてくれた。せっかく買ったのに、着る機会がないとぼやいていたレザーのジャケットを羽織った信行さんは、うれしそうだったという。「マイケル・ジャクソンみたい」とふざけ合ったのが最後の会話だ。玄関まで見送らなかったことを今でも後悔している。

 家族が過ごした居間には大きな仏壇がある。彫刻師だった静馬さんが、信行さんの死後、自身の手で装飾を施した。「息子の仏壇を親が彫ることになるなんて、誰も思っていなかった」。恵実さんは唇をかむ。

 「あの事件をきっかけにすべてが狂ってしまった」。夜になっても電気をつけず、食事もせずにただ仏壇の前でうなだれる両親。2人まで死んでしまうのでは、と怖かった。優しく、正義感の強かった弟に比べ「なんで私が生き残ったんだ…」との思いがつのった。

 初めは犯人がすぐに捕まると思い、それを心の支えにした。だが5年、10年と月日は流れ、その思いは崩れ去る。街中ですれ違う人が犯人かもしれないと全員が疑わしく見えた。警察ですら何か隠しているのではないかと疑い、誰も信じられなくなった。

 そんな中、2009年に父の体にがんが見つかる。だが、父は治療を拒んだ。「信行のところに行きたかったんやろね」。事件は、家族から生きようとする気力も奪った。

 犯人が捕まってほしいという思いはある。一方で「捕まっても、たった10年や20年の刑務所暮らしで罪ほろぼしができたと思われるのも、やるせない」。気持ちは揺れ動くが、これだけは願っている。「なんであんな優しい子が刺されてしまったのか…。せめてその理由だけは知りたい」 (玉置采也加)

   ◇    ◇

 自衛官刺殺事件 2000年3月11日午前4時40分ごろ、久留米市日吉町の交差点近くを、同僚の自衛官と歩いていた切明信行さん=当時(27)=が、何者かに刺されて亡くなった。切明さんは前日夜、同僚の送別会に出席しており、その帰り道だった。

 久留米署によると、同僚の数メートル先を歩いていた切明さんの肩を、後ろから来た男が抱くようなしぐさをした。男が離れた直後に切明さんが倒れ、友人が確認したときにはすでに胸や腹など3カ所を刺されていたという。犯人とみられる男は当時30~40歳くらいで身長約170センチ、黒っぽい上下を着て、パーマをかけた長髪だったという。

 同署ではこれまでに1万人超の捜査員を投入してきた。毎年3月11日にビラを配ると新規の目撃情報が複数集まるが、捜査の進展にはつながっていない。

 情報は久留米署=0942(38)0110。

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