後手の連鎖が招いた福岡感染拡大 政府「まず県が」こだわった自助

東京ウオッチ】3度目緊急事態決定の舞台裏

 政府が福岡県に対し、三たび出した新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言は12日発効し、当面、31日まで感染抑止の厳しい戦いが続く。当初、政府は宣言の前段階の「まん延防止等重点措置」適用にさえ消極的だったが、県内の感染状況が急速に悪化し、菅義偉首相が正式発表前日の6日夕、宣言発出を決断した。一連の過程を検証すると、変異株の感染のスピードを読み誤り、後手に回った政府の姿が浮かび上がる。

 福岡県で感染が再び広がり始めたのは、4月中旬だった。

 4月15日の時点で、「新規感染者数に占める20~30代の割合」は前月の21%から40%に、「直近1週間の新規感染者数の増加率」も前週比2・15倍に悪化。ともに、重点措置の事実上の適用基準とされる指標だ。変異株の割合も明らかに増え、翌16日に開かれた政府の基本的対処方針分科会では、「大阪を想起させるような増加」などと感染状況を危ぶむ専門家の声が相次いだ。中でも、尾身茂会長は「福岡については明らかに今、まん延防止等重点措置を打つ要件がそろっている」と明言した。

 重点措置は、都道府県全体に感染が広がって緊急事態宣言を出す事態になってしまう前にウイルスを食い止めるべく、2月に新設された制度。柔軟にスピーディーに適用していくとの触れ込みだった。だが、福岡のケースでは政府の動きは鈍かった。

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 この前後の取材メモを見返してみる。

 首相側近や政府高官は、福岡県が飲食店などに対する営業時間短縮(時短)要請を行っていなかったことを非難し、異口同音に「福岡はやるべきことをやっていない」「まずは地元でできることをすべきだ」と繰り返していた。つまり、地元が汗をかかない限り、政府は重点措置に動かないという姿勢が明らかだった。

 その後、福岡県は4月22日以降、福岡市や久留米市で午後9時までの時短要請を開始した。しかし、官邸サイドの反応は「まずは時短の効果を見てからだ」。そうこうするうち、感染状況は雪だるま式に悪くなっていく。大型連休前には、複数の感染指標が宣言発出の目安となる「ステージ4(爆発的感染拡大)」に到達してしまっていた。

 ところが、この段階に至ってもなお、政府の腰は重い。

 西村康稔経済再生担当相は4月28日、服部誠太郎知事との電話で、時短要請を午後8時までに繰り上げるよう要請。県側が「様子を見たい」と回答すると、西村氏は30日の記者会見で要請した事実を公表し、「知事がリーダーシップを発揮し、強いメッセージを発信してもらいたい」と迫った。結果的に、県側の「不作為」を印象付けるような演出に映った。

 重点措置に関しても、政府は変わらず「まずは時短の強化。県はやるべきことをやっていない」(官邸幹部)との構え。当時、重点措置の適用は少しずつ広がって愛媛、沖縄など7県になっていた。

 関係者によると、政府は適用対象地域を追加すれば、時短に対する協力金など財政支援の国庫負担が増えることに加え、東京五輪・パラリンピックを控えてこれ以上、国内感染が悪化しているイメージを持たれたくないとの思惑があったとされる。

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 5月1日、服部知事は政府に重点措置の適用を要請した。

 一方の首相は連休中、公邸や議員会館に連日出勤し、官邸や関係省庁の幹部と感染状況をつぶさに分析していた。では、福岡県の情勢についてはどう見ていたのか-。周囲には「心配している」と漏らしたものの、「知事の(重点措置)要請の追認はしない」とも付け加えていた。

 首相がようやく、福岡県へ重点措置を適用する腹を固めたのは、連休が終盤に差し掛かった5月5日。翌6日に招集した関係閣僚の会合でも、前半は北海道などと同じく、福岡県をあくまで重点措置に追加する既定路線の方向で議論が進行した。緊急事態宣言の気配は、まだなかった。「知事がまん延防止等重点措置を求めているのに、一足飛びに緊急事態宣言を出すのは制度の趣旨に反する」(官邸幹部)との相場観があったからだ。

 しかし、この会合は後半、厚生労働省などの官僚が退出し、閣僚だけの議論となって流れが一変する。

 福岡県の感染状況の深刻さに加え、福岡から九州各県に感染が加速度的にしみ出していく懸念が強まっているとの情報を把握していた西村氏が、「福岡県に緊急事態宣言を出すべきだ」などと口火を切った。やがて首相も西村氏の危機感を共有し、うなずいた。

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 この間にも福岡県内の感染状況は悪化し、新規感染者数は5月8日に500人を初めて突破し、9日まで3日連続で過去最多を更新した。政府の後手が重なり、時機を失した面は否めない。

 「福岡はやるべきことをやっていない」「まずは地元でできることをすべきだ」。繰り返しになるが、政府の動きを追う過程で何度となく耳にしてきた。首相が掲げる「自助」の理念にもつながるせりふと言える。

 政府のこうした態度は、福岡県に対してだけではない。10日に開かれた全国知事会では、重点措置の適用を渋る政府に向けた憤りが噴出した。要請したが適用されなかった茨城県の大井川和彦知事は「先手先手の措置をする制度のはずなのに、なかなか指定してもらえない」と訴えた。

 地方自治、地方の自立、自己決定権は尊重すべき大きな理念である一方、新型コロナのような国家的な危機に際しては、国が前面に立って権限を適切に行使し、対処していかざるを得ない局面が多い。今回、確かに福岡県の対策が遅かった面はある。それを差し引いても、菅政権の「後手の連鎖」の後景に、過度に「自助」を求めてやまない基本姿勢が影を落としていたのではないか-。

 一連の取材を振り返り、そんな思いにとらわれてならない。(湯之前八州)

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