進むモスク破壊、断食月の光景一変…消えゆくイスラム教の伝統

抑圧の街から 新疆ウイグルルポ㊥

 シシカバブ(羊肉の串焼き)の香ばしい煙が食欲をそそる。色鮮やかな果物、平らなパン、中央アジアの工芸品が店頭に並ぶ。

 4月下旬の昼下がり、中国新疆ウイグル自治区のカシュガル市中心部。ウイグル族の店舗や住居が密集する1キロ四方の旧市街では、楽しそうに走り回る子どもたちを大人が穏やかな表情で見守っていた。

 この時期に新疆を訪れたのには狙いがあった。4月13日から約4週間は、イスラム教の最も神聖な月とされるラマダン(断食月)。世界のイスラム教徒は原則的に日の出から日没まで飲食禁止となり、信仰心と連帯感を強める。イスラム教徒のウイグル族が人口の9割を占めるカシュガルで、その伝統は生きているか。

中国最大級のイスラム寺院、エイティガールモスク。最上部には中国国旗がはためき、かつて正面入り口の上に掲げられていたへん額は取り外されて屋内に移設されていた=4月27日、中国・新疆ウイグル自治区カシュガル市

 街を歩くと、飲食店は昼間から営業し、ウイグル族の人々がにぎやかに食事をしていた。記者はかつてイスラム教徒が人口の6割、中華系が3割のマレーシアで暮らした経験がある。断食月の昼間はイスラム教徒の飲食店が軒並み閉店していたが、ここは明らかに違う。店内は満席だ。「子どもの頃とまるで変わった。厳しい戒律は経済成長の妨げになるというのが政府の方針だから」。ウイグル族の高齢男性が声を潜めた。

 中国の憲法は信教の自由を保障しているが、習近平指導部は「宗教の中国化」を強めている。自治区政府は2017年、宗教的な過激思想を抑え込むためとして「脱過激化条例」を施行。「異常」にひげを伸ばしたり、顔全体を覆うブルカを公共の場で着用したりすることを禁じた。現地滞在中、長いあごひげを蓄えた男性や、髪を覆うスカーフ「ヒジャブ」をした女性は一人も見かけなかった。

 戒律の是非は別として、選択の自由やこの地に根付いてきた断食月が消滅しかけているのは確かだ。

   ■    □

 旧市街は、巨大なテーマパークのようだった。

 店舗や住居は、一見するとウイグル族の伝統家屋である日干しれんが造り。ただ、よく見ると多くの建物がセメント製だ。10年近く前までは古い街並みが残っていたが、中国政府指定の重点観光地となり、再開発されたという。

カフェに改装され、営業が停止されたモスク。1996年にカシュガル市政府によって保護対象の重要文化財に指定されていた=4月28日、中国・新疆ウイグル自治区カシュガル市

 その一環なのか。旧市街だけで少なくとも10カ所のモスク(イスラム教礼拝所)が閉鎖・破壊されていた。最上部のドームにあったはずのイスラム教の象徴、三日月が取り外されたり、アーチ形の窓や壁が埋められたり。ウイグル族の男性は「20年ほど前に再開発が始まるまで、市内に205カ所のモスクがあった。どれくらい減ったかは聞かないで」と話した。

 市政府が1996年に保護対象の重要文化財に指定したことを示す掲示が張られたモスクも含め、カフェやイスラム教徒にとって禁忌の酒を提供するバーに改装されたものもあった。

 モスクがカフェに転用されたと海外メディアが報じた場所を訪れた。シートや廃材でふさがれた室内をのぞくと、机や椅子が放置されていた。批判を恐れた当局の措置か、報道後に営業を停止したという。

カシュガル市内のモスク。イスラムの神を賛辞するへん額ではなく「愛党愛国」の看板が架かり、入り口には金属探知機や監視カメラがあった=4月28日、中国新疆ウイグル自治区カシュガル市

 現在も使われているモスクの周辺には入り口だけで5台の監視カメラがあり、私服警官とみられる男の姿があった。神を賛辞する扁額(へんがく)の代わりに「愛党愛国」の赤い看板がかかり、三日月のマークより高い最上部に中国国旗がはためく。入り口に金属探知機を備えたモスクもあった。

 古代からイスラムの拠点都市として栄えたカシュガル。マレーシアの街では毎日5回、必ず聞こえていたアザーン(イスラム教徒に礼拝を呼び掛ける声)は一度も耳にしなかった。

 (カシュガルで坂本信博)

 宗教の中国化 中国当局は、テロを起こす「宗教過激主義」を防ぎ、社会秩序や国家統一を保つ立場から、信仰より共産党指導を優先させる「宗教の中国化」を進めている。新疆ウイグル自治区では2017年ごろから、共産党幹部がイスラム教徒のウイグル族住民と「親戚関係」を結ぶ制度を導入し、宗教活動を監視。当局公認の中国イスラム教協会は19年、「イスラム教の中国化」に向けた5カ年計画についての決議を採択した。講義を通じて22年までに、社会主義の価値観や法律、中国の伝統文化などをイスラム教徒に教え込むとしている。

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