包丁に鎖、玄関にQR証、尾行…「開放された地区」の現実

抑圧の街から 新疆ウイグルルポ㊦

 中国西端、新疆ウイグル自治区カシュガル市内の料理店をのぞいて驚いた。調理場の包丁が鎖でつながれ、外に持ち出せなくなっていたからだ。肉屋も羊肉を切るおのの柄が鎖でつながれていた。いずれも刃には所有者を特定できるQRコードが刻印されている。かつて新疆で刃物を使った暴動が頻発し、当局が管理を強化したのだという。

 スマートフォンを持たない子どもや高齢者の首から、QRコード付きのカードがぶらさがっているのも目にした。ウイグル族の集落では各戸の玄関にQRコードが張られていた。当局がスキャンすれば、個人や家族の情報が瞬時に分かるという。

包丁やおのは鎖でつながれ、所有者を特定するQRコードが刻印されていた

 カシュガル市内では交差点ごとに「便民警務所」という交番があった。同じ交差点に二つある地域もあった。ウイグル族の男性が「5年前から一斉に整備された。住民は見慣れない人がいるとすぐ報告するよう求められている」と教えてくれた。2016年は、自治区トップの共産党委員会書記に陳全国氏が就任し、ウイグル族の統制政策が強まったとされる年だ。

旧市街の民家には、当局が住民の個人情報を把握するためとされるQRコードが張られていた

 街角のあちこちに警察官が立っている。ただ、街全体の雰囲気に物々しさはなく、穏やかだった。同僚記者が3年前に訪れた際には至る所にあったという手荷物検査用のエックス線装置は、市場やホテルで見かける程度だった。

お年寄りや子どもが首からQRコード付きのカードを下げる

 中国政府によると、新疆では17年以降、テロ事件は起きていない。5年前と現在の変化を知るメディア関係者は「ICT(情報通信技術)を駆使した監視や密告の奨励が徹底された。警備が以前より緩んで見えるのは街全体を鎮圧できたという自信の表れだろう」と話す。中国の他都市より、新型コロナウイルス対策のマスク着用が徹底されていたのも印象的だった。

 真夜中、宿泊していたホテルの窓の外が時折ピカッと白く光る。雷光かと思ったが違った。車が通るたびに自動的にナンバープレートをすべて撮影するカメラのフラッシュだった。

複数の場所に映り込んだ同じ男

 記者を挟んで50メートルほど前と後ろに2、3人ずつ。3日間のカシュガル滞在中、早朝から深夜まで当局の監視が付いた。ホテルの近くのバーに入ると、すぐそばの席に漢族の男が座り、水だけ飲んでこちらの様子をうかがう。スマホで撮影した街の動画をホテルで確認してみると、その日訪れたいくつかの場所に同じ男の姿が映っていた。

 あえて姿を見せる尾行で記者を萎縮させようとしているのかと勘ぐったが、どうも違う。狙いは取材相手のようだ。ウイグル族の人々に話しかけても、彼らの存在に気付くと急に押し黙る。客のいない雑貨店に入ると、男が入ってきて店主に何かささやく。郊外で民家に近づけば、赤い腕章を着けた男たちがやってきて立ち去るように促された。

カシュガル市内には、交差点ごとに「便民警務所」という交番が整備されていた

 中国政府は「新疆は開放された地区。各国の記者の参観訪問を歓迎する」と強調する。だが、今春以降だけでも、複数の日本メディアの記者がカメラを奪われたり、撮影した画像の削除を求められたりした。当局にとって外国人に見せたくないもの、聞かせたくない声があるのは間違いない。

 監視の目をかいくぐって、ウイグル族の男性に話を聞くことができた。「貧困脱却で莫大(ばくだい)な予算が新疆に充てられている。暮らし向きは確実に良くなった」。男性はそう言いつつ、娘の話になると表情が曇った。娘夫婦は3人目の子どもを欲しがっているが、妊娠すれば産児制限の罰則で仕事を失うという。不満は誰にぶつけようもない。「ここでは政治に関わらない方がいい。個人の力がすごく弱いから」と声を潜めた。 (カシュガルで坂本信博)

 新疆ウイグル自治区のテロ対策 2014年、中国の習近平国家主席が新疆ウイグル自治区を視察に訪れた際に区都ウルムチで多数が死傷する自爆テロが発生して以降、テロ対策が強化されたとの指摘がある。チベット自治区で分離・独立運動を封じ込めた陳全国氏が新疆のトップに就任した16年から統制が加速。人工知能(AI)を利用した顔認証など先端技術も駆使して軍や警察が監視網を敷いている。ウイグル族はスマートフォンの通信記録が管理され、「健康診断」として指紋や血液、DNAサンプル、音声や瞳の虹彩データが採取されているという。

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