【「全集中」し五輪開催を】 藻谷浩介さん

 新型コロナウイルス第4波が襲来してしまった。同じ失敗が、次第に程度をひどくしながら繰り返されることに、いいかげん倦(う)んできた方も多いだろう。医療介護現場の皆さんや、ご関係の公職にある皆さんの心身のご疲労が、本当に心配である。

 実はこの間、日本は感染の再拡大防止に3度失敗している。中国・武漢で広まり昨年1~2月に国内に持ち込まれたウイルスは、厚生労働省の集計で、新規陽性判明者数を1日最大27人に抑え込むことができた。しかるに欧米から帰国した日本人が持ち込んだ変異ウイルスを空港でブロックできなかったため、昨年3~4月に第1波が起きてしまった(新規陽性判明者は1日最大708人)。

 さらに昨夏に第2波、年末年始に第3波が起きる(新規陽性判明者は1日最大でそれぞれ1595人と7844人)。国立感染症研究所の遺伝子解析では、この二つの波は東京・新宿のたった1人の感染者から広がったものだった。当人を拡散前に発見し隔離できていれば、夏以降の人命被害も経済被害もなかったかもしれない。

 ただそれができていれば、今春の第4波(新規陽性判明者1日最大7057人)は油断していたであろう分、今以上に猛威を振るったことだろう。これを引き起こしたのは英国から持ち込まれた変異株なのだが、日本はまたも空港でのブロックに失敗した。

    ◆   ◆ 

 なぜ日本はウイルスの侵入を防げないのか。一言でいえば、入国者に2週間の隔離を徹底させるのに必要な公務員の数が足りないのだろう。

 衛星利用測位システム(GPS)での位置把握などデジタル活用もできていない。ワクチン接種の会場では、二重接種を防ぐための記録すら、バーコードやQRコードを使わずに、数字をOCR(光学式文字読み取り装置)という懐かしい機器で読み取っている始末だ。デジタルに関する政府の知見と活用意欲の欠如は、幕末の江戸幕府の、組織近代化への意欲の欠如に比肩すべきものかもしれない。

 こんなことなので、東京五輪・パラリンピックを実施すれば、さらにいろいろな変異株が持ち込まれるのではないかと懸念が広がるのは当然だ。少なくとも政府は、日本学術会議に無用で無道の介入をする暇があったのなら、昨秋から入国管理や検疫部門の人員を強化し、ワクチンを迅速大量に接種できる体制を整備しておくべきだった。

    ◆   ◆ 

 ところでスポーツ界では最近、男子ゴルフの松山英樹選手がマスターズ・トーナメントで優勝し、米大リーグでは大谷翔平選手が大活躍している。これらの会場近辺の感染は収まっていたのか。

 エンゼルスの本拠地・カリフォルニア州オレンジ郡の昨年から今年4月末までの死者数累計は、人口比で東京都の11倍。新規陽性判明者数は、米国でワクチン接種の進んだ4月に限っても、人口比で東京都と同水準だった。マスターズ会場のジョージア州リッチモンド郡では、それぞれ東京の18倍、3倍である。

 コロナ対策を施しての開催があって、2人は歴史を塗り替えた。白血病を克服した競泳の池江璃花子選手にとっての五輪も同じだろう。私たちは松山選手や大谷選手を応援する一方で、池江選手に我慢しろと言えるのだろうか。

 池江選手に限らない。4年に1度の大会に向け、研鑽(けんさん)を重ねてきた有名無名の選手たちの立場や気持ちに思いを巡らせたい。政府には今度こそ水際対策に全集中していただき、無観客でも無報道でもいいので、とにかく選手たちを一生に一度の機会に競わせてあげられないのかと、筆者は強く思っている。

 【略歴】1964年、山口県徳山市(現周南市)生まれ。88年東京大法学部卒、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。米コロンビア大経営大学院で経営学修士(MBA)取得。2012年1月から現職。著書に「デフレの正体」「里山資本主義」など。

PR

開催中

映像シアター

  • 2021年7月17日(土) 〜 2021年7月29日(木)
  • 福岡市保健環境学習室 まもるーむ福岡

PR