基地負担見返りでコロナ対策? オンリーワンの交付金で通す「無理」

【防衛マネーの正体】

 在日米軍再編に絡み、米軍岩国基地を抱える山口県だけに配られる防衛省の交付金がある。「再編関連特別地域整備事業に係る交付金」(特別交付金)は2015年、政権と歩調を合わせる地元の要望を受けて創設。岩国基地の機能強化とともに膨らみ続け、200億円以上がつぎ込まれた。使途は道路整備からソフト事業まで幅広く、関係者は「頼めば応えてくれるお金」とささやく。地元議会では、新型コロナウイルス対策への活用も持ち上がる。

 「当地域は基地問題への取り組みを積極的に行っている。交付金での経済支援に特段の配慮を願う」。岩国基地が立地する岩国市と周辺の和木町、周防大島町の議員3人が4月下旬、要望書を手に山口県庁を訪れた。特別交付金を使い、新型コロナの影響で疲弊する飲食店などへの支援を求める内容だった。

 特別交付金の使途は要綱で定められ、「個人に対する見舞金などには充てられない」とある。要望書をまとめた岩国市議の桑原敏幸氏は「ハードルは高い」と認めながら、こう語った。「議会主導で実現した交付金。できん話ではない」

 県や市町の議員でつくる「岩国基地問題議員連盟連絡協議会」の柳居俊学代表(県議会議長)は要望書を受け取り、「議連で扱いを検討したい」とした。

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 協議会は11年、民主党政権時代に基地負担を理由に財政措置を求め、応えたのが安倍晋三政権だった。

 「自治体からの要望もいただいている。検討するのはある意味で自然だ」。特別交付金制度が始まる前年の14年7月、菅義偉官房長官(当時)は記者会見でこう述べた。政府は15年度当初予算案に18億5200万円を計上。17年度まで、公共施設整備(ハード事業)に使えるようになった。

 17年には米軍厚木基地(神奈川県)から岩国への空母艦載機移転を認めるかどうかが焦点となる。菅氏や山口県選出の岸信夫外務副大臣(現防衛相)が地元入りし、理解を求めた。県は特別交付金の期間延長や住民サービスへの拡充を要望。政府側は「前向きに検討する」と言及、県などは移転容認を表明した。

 18年度からはソフト事業にも使途が広がり、期間も27年度まで延びた。交付額は17年度の2・4倍の49億8千万円、19、20年度は50億円で推移した。交付額は要綱に「防衛大臣が定める」とあるだけで、客観的な算定基準はない。

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 特別交付金を使ってのコロナ対策について、県や防衛関係者は否定的だ。

 県幹部は「飲食店への交付は無理だという要綱の解釈は変わらない」と指摘。県議からも「個人にばらまくのは筋違いでおかしい」との声が上がる。

 西日本新聞の取材に対し、中国四国防衛局は「可否については、具体的な事業の交付手続きがなされた際に適切に対応する」と説明するが、水面下で県に「要綱の規定から難しい」と回答している。

 それでも、桑原氏は「岩国が一番国防に協力しとるということで、山口県に付いたお金。要綱は後付けだ」と意に介さない。防衛省の別の交付金で、岩国市の小中学校の給食を無償化した例に触れ、こう話した。「給食も最初は『無理』と言いよったからな」

(竹中謙輔、梅沢平)

いいかげんな制度設計でモラルハザード

 基地関連の交付金に詳しい京都府立大の川瀬光義名誉教授(地方財政学)の話 米軍再編に絡む岩国基地の機能強化を巡り、山口県と3市町は政府が同意や理解を得る対象となる。特別交付金は懐柔するための「まき餌」のようだ。上限がなく、一つの県で毎年50億円は他の交付金に比べても突出して多い。新型コロナ対策は政府がさまざまな予算措置をしているため、「国が行う事業や補助する事業」は対象外とする要綱にもひっかかる可能性がある。地元に「何でも使える」と思わせる、国の制度設計のいいかげんさが招いたモラルハザード(倫理観の欠如)を象徴している。

 再編関連特別地域整備事業に係る交付金(特別交付金) 対象自治体について、国の要綱は「米軍再編の円滑かつ確実な実施に理解して協力する」「航空機40機以上、部隊人員千人以上が増加」を条件とする。当てはまるのは、岩国基地がある山口県だけで、交付金が使えるのは立地自治体の岩国市と和木町、周防大島町での事業に限る。道路改良のほか、小中学校への日本語指導支援員配置や公立病院への医師派遣に活用された。2021年度の交付額は約45億円。

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