22歳出産休業で賞与なし…根に女性差別「あなただけの問題でない」

団交の鬼~ブラック企業との闘い❷

 「え、おかしくない?」

 福岡県内にある特別養護老人ホームの介護職を産後休業中だった恵美(22)=仮名=は目を疑った。支給されるはずのボーナスが振り込まれていなかったのだ。

 昨年4月末から産前休業に入り、6月上旬に出産。7月31日までが産後休業で、8月1日から育児休業に入っていた。

 ボーナス支給日は毎年7月10日と12月10日。4月までは勤務しており、その分の支給は当然の権利だと思っていた。

 知り合いの社会保険労務士に尋ねると「それはおかしい」、福岡労働局も「あなたの話だけでは違反とは言えないが、望ましくない」との見解だった。

 昨年8月、施設長と話し合いの場を持った。「給与規定で、休職中の人はボーナスの支給対象から外すと決めている。今までも支払っていない」と一蹴された。

 納得できない中、知人に連合福岡ユニオン(福岡市)の存在を教えてもらった。担当は「団交の鬼」、特別執行委員の志水輝美(70)になった。

          ◆

 11月、志水は幼子がいる恵美を伴い、施設側と団体交渉を始めた。志水はボーナス不払いの根拠を問いただすが、施設側の対応はのらりくらりで「最終的には理事長が判断する」などと曖昧な回答が続いた。

 志水は反論を加えていく。12月10日のボーナスから、産前休業に入るまでの4カ月間ほどは勤務実態がある。前年もボーナスは支払われており、労働基準法に基づいて、勤務実態に応じた支払い義務が生じていると訴えた。

 さらに、「休職中の者はボーナスの支給対象から除外する」との給与規定そのものを問題視。男女雇用機会均等法や育児・介護休業法では、出産、育児休業の取得などによる不利益な取り扱いを禁じている。規定自体が違法であり、見直すべきだと求めた。

 施設へ問題提起する恵美に、「圧力」ではないかと感じる事態も起きていた。「男性職員と不倫しているのではないか」とあらぬうわさが流された。一部管理職が関与していた疑いが生じ、志水は「セクハラではないか」と糾弾。だが、この問題についても法人側は責任を認めなかった。

 さすがにくじけそうになる恵美だったが、志水は繰り返し「最後まで一緒に闘っていくから」と励ました。「今回はあなたの話ではあるが、あなただけの問題ではない。女性差別という根本的な問題がベースにある」

 団交だけが志水の闘い方ではない。労働基準監督署の監督官に対し、面会や書面、電話とさまざまな手段を使い、法人への監督調査を働きかけた。法人側には大きなプレッシャーになったのだろう、「裁判で決着をつける」としてきた姿勢が変化していった。

 法人側は5月中旬、取材に対して「同意書を既に交わした」と明らかにした。賞与の一部に該当する「和解金」の支払いがあったとみられる。

          ◆

 本来であれば、施設長に一蹴された時点で、多くの職員は泣き寝入りするだろう。恵美はくじけず一人で労働基準監督署に行ったが、すぐに対処してもらえなかった。だが、志水が一緒に付き添うと「申告を正式に受理され、全く応対が違った」という。

 福祉の現場で、若い女性は貴重な介護の担い手として高齢化社会を支えている。「出産に伴う休職という部分で労働者の権利が守られないならば、男女平等の社会は成り立たない。だから徹底的に闘った」と志水は振り返る。

 粘り続けた恵美はその後、この施設を去り、新しい職場で働き始めたそうだ。「この経験は、これからの人生に絶対に役に立つはず」と話している。志水も母として、労働者として、少し強くなった恵美の幸せを願っている。 (竹次稔)=敬称略

 志水輝美(しみず・てるみ) 長崎県出身。1969年に日本国有鉄道(国鉄)に入り、74年から労働組合活動に携わるようになる。国鉄を離れ、96年に連合福岡ユニオン結成に関わり、専任の書記長に就任した。副委員長を経て、2015年から特別執行委員。17年にはふくほくユニオンを結成し、副委員長に就任。両ユニオンに携わるダブルワーク中。

※次回は6月6日午前6時にアップ予定です

関連記事

福岡県の天気予報

PR

福岡 アクセスランキング

PR