不敬罪復活、タイの若者苦闘 王室批判で立件…「次世代のため」有罪覚悟

 王室への侮辱に最長15年の禁錮刑を科し「世界で最も厳格」とされるタイの不敬罪。昨年来の反体制デモで異例の王室批判を展開した学生リーダーらが今、相次いで不敬容疑で摘発されている。聴取中を含む立件対象は90人以上。国王の指導で約2年停止していた不敬罪立件の再開によってデモが失速する一方、タブーを破った若者たちの苦闘はなお続いている。(バンコク川合秀紀)

 13日、バンコクの検察庁舎。地元メディアと支援者がまばらに集まる中、地元大学4年のパトサラワリーさん(25)が出頭した。不敬罪で起訴されるかどうかの決定を聞くためだった。

 約30分後、庁舎から出てきた彼女は決定が延期されたことを明かした。「いくら聞いても理由は分からない」。21日、別の不敬容疑でも起訴か否かの決定が理由なく延期された。翻弄(ほんろう)される日々がまだ続く。

 目立った政治活動歴のない大学生だったが、一連のデモでの演説が人気を呼び有名になった。大きな転機は昨年8月3日のデモ。居合わせた人権派弁護士が長年タブーだった王室批判を演説でぶち上げた。王室の政治関与禁止や権限・予算の縮小などを求める主張に聴衆は拍手せず、一様に驚いた顔をしていたのを覚えている。

パトラサワリーさん

 「みんな『そこまで言うの?』という顔だったし、私も怖かった。でも王室改革の議論が最も必要なことだと思い、自分でも演説に加わろうと決めた」。この日以降、パトサラワリーさんら若者たちが次々に王室批判を公言し、デモ参加者は数万人規模に膨れ上がっていった。

 彼女の不敬容疑は3件。昨年9月と10月、今年3月のデモで行った演説が不敬に当たるとされる。全て起訴され有罪になれば最長45年の禁錮刑が科される可能性がある。それでも「有罪になってもたいしたことじゃない。次の世代に私たちの闘いの正しさを知ってもらえる」と既に覚悟を決めているようだった。

 「私も一人で闘っているわけじゃない」

断食で抗議、ようやく保釈

 人権派弁護士グループによると、不敬罪の摘発対象94人(5月27日時点)の大半が10~20代で、うち20人が既に起訴されている。その多くが一連のデモを率いた反体制派リーダーたちだ。

 最も激しく王室批判を展開してきた大学生リーダーのパリットさん(23)は2月以降、仲間の中で最多となる計20件の不敬罪で起訴された。勾留中に抗議の意思を示すハンガーストライキを57日間続け、今月11日に10回目の申請でようやく保釈が認められた。

 当局が保釈を認めなかったり、起訴の決定を延期したりするのは「嫌がらせで、中ぶらりん状態をわざと長期化させている」(弁護士グループ)という。

 パリットさんの保釈条件は王室の中傷など混乱を招く言動をしないこと。翌12日、会員制交流サイト(SNS)に「私は私のままだ」と投稿。「王室改革と真の民主化を求める闘いは力強く続ける」と支持者たちに訴えた。

 2件の不敬容疑がかけられている大学1年ベンジャさん(22)はパリットさんと高校時代からの同級生。13日、検察庁に出頭した際に「投稿を読んで安心した。彼の気持ちが弱くなることはあり得ない」と語った。

ベンジャさん

 宇宙開発分野の仕事に携わるのが夢だが、パリットさんに感化され王室改革要求のデモに加わった。弁護士や友人からは、将来のため罪を認めた上で王室問題の発言を控えるよう勧められる。だが「それが当局の狙いだ」と思う。「デモが沈静化した今こそ、私たちがどれだけ闘い続けられるかが重要だ」

 バンコクなどで新型コロナウイルス感染が急拡大する中、勾留されたリーダーたちが相次ぎ感染。厳しい保釈条件も相まって目立った抗議活動はできない。闘いの継続が難しいことは当の反体制派が最も切実に感じているのかもしれない。現に、闘争から降りたリーダーもいる。

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