先の見えない日々、親のプレッシャー…具合が悪くなった妻

復刻連載「産まない、産めない かつての事情」<11>

 積極的な選択として「産まない」のではない。でも、不妊治療はしていない。「あくまで自然に」という道を選ぶ夫婦もいる。男性の側から理由を聞いてみた。

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 秀雄さん(35)の場合、結婚して5年になるが、子どもはいない。「不妊の状態かもしれない」とは思っている。ただ、これまで、治療したことも、検査を受けたこともない。

 子どもが欲しくないわけではない。「できればいいな、くらいの気持ちでいます」

 3年ほど前、「そのこと」について話し合ったことがある。お互いの両親にとって初孫にあたり、期待はひしひし感じる。里帰りするのが疎ましく思うときもある。ただ「2人の人生を周囲に左右されたくない」気持ちの方が勝っていて、悩むほどではない。何より夫婦の生活は楽しい。「だったら自然に任せておけばいいよね」というのが結論だった。

 「もちろん妻が治療したいと言えば、協力は惜しみません。婦人科にも泌尿器科にも出かけるつもり。不妊治療を否定したり、嫌がってるわけじゃないから。ただ、僕から『治療を受けよう』とは言い出さないでしょうね」

 秀雄さん夫婦は多趣味で、休日も自分たちのために精いっぱい時間を使っている。

 「僕が目移りする性格で、すぐ新しいものに飛びついちゃう。そのたびに小遣いをせびってます。妻にとって、僕は子どもみたいなもの。治療に積極的になれないのは、居心地のよさもあるのかもしれませんね」

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 直樹さん(31)の事情は、少し違う。妻(30)はこの2年間、不妊治療を続けてきた。最初に夫婦で検査したが、2人とも異常なし。「とりあえず」ホルモン療法から始めたが、なかなか結果は得られなかった。先の見えない日々、排卵誘発剤の副作用、さらに「治療、頑張って」という親のプレッシャー…。さまざまなことが妻には精神的な負担となり、ストレス性の内臓疾患になってしまった。

 「日に日に具合が悪くなっていく彼女を、はたで見るのがつらくなって」。そこで子どものことについて改めて話し合ってみた。

 結論は「今の体調では満足な育児はできない。自分たちが健康でいることが先決」だった。

 今年3月、不妊治療をやめた。

 「子どもですか? もちろん欲しいですよ。でも、できないことを妻ほど悩んでない、というのが本心です。現段階では、赤ちゃんを抱いてる自分の姿が想像できないんです。男って、実際に生まれてきた子を抱いて初めて、父親の自覚というものが芽生えてくるのだろうと思います」

 夏になり、妻の体調は回復してきた。そろそろ「もう1度、話し合ってみよう」と思っている。

 「『自然に』でも、治療でも、どちらでも構わない。今、僕にできることは、自分と、自分を大切に思ってくれる妻の幸せを考えることしかありませんから」(文中仮名)=おわり

 

◆少子化に歯止めがかからない。もう何年も…。目を凝らすと、置き去りにされてきた家族の問題が浮かび上がってくる。子どもを望む人が産みやすい社会、産んでよかったと思える社会にするには-。1999年の連載を読み返し、考えるヒントにしてみませんか。文中の情報は全て当時のものです。

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