「核兵器はなくせる」田上・長崎市長の決意、被爆地が伝える「原点」

ネクストステップ 「核なき世界」を問う❶

 人類にとって初めての核兵器が広島、長崎の街に投下されて今年で76年。被爆者が、そして被爆地が長年訴えてきた核兵器廃絶の願いは今年1月、製造から使用までの一切を禁じた核兵器禁止条約の発効につながった。だが世界には今なお1万3千発以上の核弾頭が存在し、核保有国や日本は条約に背を向ける。新型コロナウイルスという新たな人類の脅威を前に、国際社会での核軍縮の機運も高まらないままだ。被爆者がいなくなる時代が近づいている。バトンを受け取った私たちは今、核兵器をなくすために何をすべきなのか。被爆地からさまざまな人に問いかけ、考えたい。1回目は核禁条約の締約国会議にいち早く参加を表明した長崎市の田上富久市長。被爆地の首長として、どう行動しようとしているのか-。(聞き手は西田昌矢)

 核兵器禁止条約は50カ国・地域が批准し今年1月22日に発効。国連事務総長が1年以内に招集する締約国会議は当初、来年1月が予定されていた。だが、新型コロナの影響で延期の可能性も浮上している

 -締約国会議への参加の見通しはどうなっているのか。

 「まだ決まってはいません。締約国会議の日程も決まっていないので。ただ、会議のアレクサンダー・クメント議長(オーストリア)とはやりとりをしていて『来てほしい』と言われている。日程が合えばぜひ行かせてもらいたい」

 発効当初から「条約が世界の規範となるよう被爆地としての役割を果たす」と強調した田上氏。2021年度の市一般会計当初予算に締約国会議出席のための費用を盛り込むなど、被爆地の首長としてのオブザーバー参加に強い意欲を示していた

 「この条約の源流をつくったのは被爆者であり、被爆地。そこに国際赤十字や核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)などの非政府組織(NGO)が加わり、大きな流れになった。発効はゴールではない。核廃絶の原点を伝え続け、条約が本当に力を持って核兵器がない世界が実現するまでかかわっていく責任が被爆地にある」

 「核兵器が使われるとどんなむごいことが起きるか、それを一番知っているのは被爆地だから」

 核軍縮を巡っては今年、もうひとつのテーブルも用意されていた。核保有国が参加し、5年に1度開かれる核拡散防止条約(NPT)の再検討会議。だが当初予定から1年延期となった昨年に続き、今年もコロナ禍を理由に再延期が浮上している。平均年齢が83歳を超えた被爆者たちは焦りを募らせる

 -2015年のNPT再検討会議に市長はNGO「平和首長会議」の副会長として参加している。今回は長崎市長として参加するのか。

 「まだ分からない。ただ、会議はクメント議長や締約国の外交官たちと意見交換する初めての場となるので、参加には大きな意義がある」

 -会議で発言の機会があれば誰に何を伝えたいか。

 「まずは締約国に対して条約を成立、発効させたことに対する感謝。それと、条約はまだ完成形ではない。多くの人たちの知恵を集めて実効性のあるものに育てていく工程がこれから始まる。その中で被爆者、被爆地がしっかり役目を果たしていくと伝えていく」

日本政府は「育ての親」に

 核禁条約は、核兵器が廃棄されたことをどう検証するかなどの具体的な中身は固まっていない。何より、この条約を国際社会でどう普遍化させていくかが課題だ。その方策を探るため、原則として2年ごとの締約国会議と6年ごとの検討会議が繰り返される

 -唯一の戦争被爆国である日本政府は条約の署名、批准を拒否し、締約国会議のオブザーバー参加も否定している。どう思うか。

 「政府は核保有国と非保有国の橋渡しをすると言っている。それならぜひ、会議にオブザーバー参加してほしい。条約は生まれたての赤ちゃんのようなもの。できたからといってすぐに核兵器がなくなるわけではない。だから、日本政府は条約の生みの親にはなれなかったが、育ての親にはなってほしい」

 -外国から見ると日本政府が署名に反対で自治体の市長が賛成というのはダブルスタンダードというか、分かりにくいのでは。

 「広島、長崎で分かりにくいというのはあまり言われないですね。世界の中では原爆を体験した二つの都市という認識。僕らもそういう意味で被爆地として伝える役割があるので伝えに行く」

 だが、核禁条約の発効について、核保有国は「いかなる核兵器の除去ももたらさず、NPTを弱体化させる」(フランス)などと批判的だ。国際社会で自国の保有が他国の使用をけん制する核抑止論は根強く、日本も米国の「核の傘」の下にいる

 -市長が締約国会議に参加することへの慎重論は。たとえば、日本政府から出席の見送りを求められたりしていないか。

 「出ないでくれという話は少なくともない。1995年に国際司法裁判所が核兵器の違法性に関する判断をしたときに、長崎市と広島市の市長が意見陳述した。そのときに政府が違法だと言わないでくれ、と両市長に言ったことが後で明らかになった。それでも広島、長崎の市長は違法だと言った」

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