「かまぼこの切り方が厚い」と解雇…パート110番で知った非正規の現実

団交の鬼~ブラック企業との闘い❸

 1人でも加入できる労働組合「ふくほくユニオン」(福岡県福津市)の副委員長として、70歳の今も闘い続ける志水輝美。

 県内の地域ユニオンで最も実績がある「連合福岡ユニオン」(福岡市)の書記長として長く活躍してきた。副委員長職を2015年に退き、今は「特別執行委員」といういわば後輩の“指導係”。本人は手薄な県北エリアのてこ入れにと「ふくほく」を17年に地元の仲間と立ち上げ、最前線に立ち続けている。

 健康の秘訣(ひけつ)は「水泳と(福岡県古賀市の自宅での)野菜作り」。体力が続く限り、現役を貫く覚悟の「団交の鬼」はどうやって生まれたのだろうか。

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 志水は1969年、佐賀県の伊万里商業高を卒業後、憧れだった国鉄に入った。採用面接でストライキについて聞かれ「そんなことしたら、いかんでしょうが」と答える青年だった。

 入社から半年後、福岡市内にあった貨物列車専用の「博多港駅」(当時)に配属。そこで国鉄労働組合(国労)に入る。国鉄マンとして自然な流れだったが、国労博多港分会の青年部長に就くなど、徐々に労働運動にのめり込んでいく。

 81年、労組のナショナルセンター「総評」(現在の「連合」に合流)の地域組織だった「福岡地区労働組合協議会」(福岡地区労、約3万5000人加盟)の専従職に就く。当時は「労働基準法すら十分に理解していなかった」そうだ。

 一つのきっかけが志水を変える。82年に福岡地区労が始めた電話による労働相談「パート110番」だ。

 当時、非正規労働者、特に女性の待遇の問題が顕在化し始めていた。志水も驚くような中小・零細企業の労働実態があった。

 「かまぼこの切り方が厚いと言って解雇された」という弁当店勤務の女性。食品工場で働く女性は「労災事故があったのに夫の健康保険で治療するよう強要されている」と頭を抱えた。「勤務成績の良い順番から、社会保険の加入が認められ、不公平」。ゴルフ場のキャディーは訴えた。

 解決の手助けができないかと雇用主に働き掛けることもあったが、部外者の指摘に「法律通りで、世の中が回るもんか」と開き直られる始末。非正規やパート労働者のための組合をつくり、労使対等の団体交渉ができれば、もっと改善を促せるのではないか―。後のユニオンにつながる考えが志水の中に芽生え始めた。

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 一度のつまずきでへこたれず、別のアプローチで突破口を見いだす志水のスタイルは、若き日も変わらない。目を付けたのが「雇用契約書」だった。

 パートの立場が弱い理由の一つに、そもそも労働条件が経営側から書面で交付されず、「言った言わない」のトラブルになりやすい点があると考えた。回避するため、労働者側がしっかりと雇用内容を書面で確認していく運動を思いつく。

 雇用期間、就業場所、賃金・昇級、休憩時間、通勤手当、社会保険、年次有給休暇…。福岡地区労の仲間と相談し、細かく明記したA4判サイズのペーパーを作成した。今は当たり前だが、当時は労使の確認事項が賃金のみというケースは少なくなかったからだ。

 スローガンは「後で泣くより、勇気を持って文書で結ぼう」。このペーパーを福岡県や労働省(当時)に持ち込み、使用者側が契約書のやりとりを確実に履行するよう指導を繰り返し求めた。志水たちの運動の効果もあって、雇用契約書は徐々に労働現場へ広がっていった。

 「団交の鬼」が片りんを見せ始める中、時代は平成へ。89年、総評が解体される。それは、志水の活動基盤が大きく揺らぐ一方で、新たな動きを呼ぶ契機となった。 (竹次稔)=敬称略

 志水輝美(しみず・てるみ) 長崎県出身。1969年に日本国有鉄道(国鉄)入り、74年から労働組合活動に携わるようになる。国鉄を離れ、96年に連合福岡ユニオン結成に関わり、専任の書記長に就任した。副委員長を経て、2015年から特別執行委員。17年にはふくほくユニオンを結成し、副委員長に就任。両ユニオンに携わるダブルワーク中。

 労働組合法 憲法28条には、労働組合をつくったり、労使対等の立場で交渉したり、時にはストライキを行ったりできる「労働三権」の明記がある。それを実現するために1949年に施行された。労働条件の改善に向け、労使が話し合う場が団体交渉(団交)。使用者は正当な理由がない限り団交を拒否できず、組合加入による解雇などの不利益な取り扱いは「不当労働行為」として禁じられている。

 地域ユニオン 1人からでも加入できる労働組合の通称。主に中小・零細業の労働者を一定の地域単位で集め、特定企業への所属を条件とせずに加入できる。合同労組とも呼ばれている。同じ会社内で組織する企業別組合(単位組合)や、同じ業種の企業別組合が集まった産業別組合とは異なる。

※次回は6月13日午前6時にアップ予定です

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