飲酒事故で一度は失った音色…5人の吹奏楽同好会と響け再び

 長崎県佐世保市の九州文化学園高に今月、生徒5人の吹奏楽同好会が発足した。率いるのは今春、着任した教諭の前川希帆(きほ)さん(25)。音楽の道を志した8年前、無免許、酒気帯び運転による交通事故に遭い、大好きなトランペットで音すら出せない傷を負った。苦難を乗り越えた前川さんは「やると決めたら諦めない。だから今、私は生徒の前に立てている」。経験を糧に、生徒たちへ伝えたい思いがある。

 放課後の音楽室。指や腕を小刻みに動かし軽快に音を奏でる生徒の前で、前川さんが指揮を執る。誰かがプオン、と音を外した。ふふっと笑って視線を送る。「最後まで吹ききるよ」

 中学の吹奏楽部でトランペットを始め、佐世保東翔高3年の時に臨んだソロコンテスト県大会で優勝。恩師が薦めたくらしき作陽大音楽学部(岡山県)の推薦入試に向かう車中で事故に遭った。上唇は三つに裂け、トランペットを吹くのに重要な前歯は4本を歯茎ごと失った。

 入れ歯を作ったが、初めは音も出なかった。傷を縫合し硬くなった唇も振動しない。推薦入試をやりなおし同大には進学できたものの、思い通りの音を出せない日々は長く続き、周囲と比較しては落ち込んだ。

 演奏の楽しみを取り戻したのは、自分の小さな成長を見つめられるようになった大学3年の頃。昨日出なかった音が、今日は出せる。下手な自分も受け入れられると、心が軽くなった。「きついときにもうちょっと頑張り続ける、人との比較じゃなくて『対自分』で考える。その大切さを学べたのは事故や挫折を経たからこそ」と思う。

 卒業後、長崎県内の高校で音楽講師をしていた前川さんに、九州文化学園高から「吹奏楽部の立ち上げに協力してほしい」と打診があった。まっさらな生徒たちと一緒にやってみたい-。迷った末に、決断した。

 少人数の同好会。パートも充実させられない。それでも「できない」という考えは捨てる。練習を始めた4月、生徒に伝えた。「5人でできる最大限のパフォーマンスをやろう。大人数向けの楽曲にも挑戦して、少ないと感じさせない演奏をやろう」

 フルート担当の1年、柴田鈴乃(りの)さん(16)は小学生の時に前川さんの演奏を聴いていた。小学校を訪問し、高らかにトランペットを吹いた姿に憧れた。「高校に前川先生がいてびっくりした。テンポが分からなくなったときは一緒にリズムを取ってもらっています」

 6月に同好会として正式に発足したことで大会出場の道が開けた。目指すのは、地域に愛される吹奏楽。「諦めない」教諭と5人の生徒のアンサンブルが夏の空に響く。

(平山成美)

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