五輪はコロナは…「まあ見ていろ」自信見せていた首相

 来るべき衆院選を強烈に意識しながら、菅義偉首相と野党第1党の枝野幸男・立憲民主党代表が向かい合った9日の党首討論。互いに「選挙の顔」を世間に印象付けようと、自身の実績や持ち味をアピールしつつ、決定打には欠けた感も。16日の国会会期末が迫り、次の選挙に向けて勢いをつけたい与野党の攻防はヤマ場に入った。

 午後4時。新型コロナウイルス感染症対策のため、入場者を絞った「静粛な環境」(大塚耕平参院国家基本政策委員長)下で論戦は始まった。枝野氏は、福岡県など10都道府県に発出されている緊急事態宣言の解除に関し「厳しい基準を明確にすべきだ」と口火を切った。

 これを正面に見据えていた首相は、立ち上がると両手を台に添えながら「せっかくの機会ですから、私自身の考え方を明快に述べさせていただきたい」。ワクチン接種がようやく軌道に乗り始めた現状について数字を交えながら説明し、「感染対策はワクチンで大きく変わった」。この間、手元に目を落とす場面はほとんどなかった。

 「私からもうかがってみたい」「いかがなものかなと思う」。いつも通り、淡々とした口調の中にも党首討論らしい逆質問を織り交ぜ、枝野氏に説明責任を求めていく。

 元々、秘書官が周到に準備した文章を読み上げることが多く、与党内からも丁々発止のやりとりを不安視されていた首相。自身初となる党首討論に際し、周囲には「しっかりやるから、まあ見ていろ」と自信を見せていたという。

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 双方に動きが生じたのは、開幕まで1カ月半の東京五輪・パラリンピックを巡る応酬の場面。

 枝野氏が「開催を契機として国内で感染が広がり、国民の命と健康を脅かすような事態を招くことはないか」と認識を問う。その間、着席した首相はびっしりと付箋が貼られた答弁書を慌ただしくめくった。そして、「私自身、高校生だったが鮮明に記憶している」-。1964年の前回東京五輪の思い出を唐突に語りだした。

 「東洋の魔女」と呼ばれたバレーボール女子日本代表、マラソン男子のアベベ選手(エチオピア)、柔道男子のアントン・ヘーシンク選手(オランダ)…。首相の情緒的な回顧が続く。持ち時間が30分に限られている枝野氏は「時間稼ぎ」を疑い、「後段の話は(ウイルス対策に全く関係がなく)、この場にふさわしくない」と皮肉った。

 その枝野氏も、どう表明するか注視されていた五輪の可否で煮え切らない。「選手の努力を考えたら、私もぜひ(五輪を)開催したいと思う」。得意とする理詰めの弁舌からほど遠く、首相をコーナーに追い詰められなかった。

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 この日の枝野氏の討論内容に対しては、立民内からも「踏み込み不足だ」(中堅)との不満が出る一方で、内閣不信任決議案提出に向けた布石との見方も。

 今国会の会期延長要請を首相にかわされた枝野氏は、「衆院解散・総選挙をしても1カ月半で国会を開くことができる。国会を閉じれば、2倍以上の政治空白をつくることになる」と前置きした上で、「機能する政府を取り戻すには政権を代えるしかない」。これは、解散を誘発しかねない決議案提出への理解を、国民に訴えた格好だ。

 討論終了後、枝野氏は記者団に「五輪の安全性と意義、補正予算、会期の延長。残念ながら三つのゼロ(回答)が明らかになった」。決議案の提出に向け、野党間で協議に入る考えを明らかにした。

(河合仁志、川口安子)

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