「どうして」担任の震える口元、妙に優しい言葉…感じた違和感

復刻連載・冷めた視線-学級崩壊の現場から<1>

 「すまんけど…、授業中はやめてくれんね」

 福岡都市圏の小学校。30代半ばの男性教師が声をかけた。

 昨年の2学期初め、6年生の授業中。ユキが後ろの席の子に手紙を渡しているところを担任に見つかったときのことだ。

 「どうして謝るように注意するの。ちゃんとしかればいいのに…」

 ユキは、担任の震える口元を見ながら、違和感を抱かずにはいられなかった。

 先生のおずおずとした態度。妙に優しい言葉。「そんなだから、男子になめられるんよ」とも思った。

 ユキのクラスは「学級崩壊」に陥っていた。

   ×   ×

 授業中、中心になって騒ぐのは6人の男子児童。大声での私語は序の口。机の上に教科書も出さずに漫画を読む、CDを聞く…。挙げ句の果てには、立ち上がってキャッチボールを始める。教卓の前をボールが右へ左へ飛ぶ。1学期初めから始まった“混乱”は、1学期の終わりには学級全体に広がった。

 今では、チャイムが鳴っても、授業はすぐには始まらない。いや、始められない。

 「教科書を出しなさい」「席について」…。担任がいくら注意しても、男子たちは完全無視。

 教科書が1ページも進まずに終わることも珍しくない。

 「あんな言い方じゃ、聞くわけないよ」

 ユキはそう心の中でつぶやきながら、男子が騒いでいるのを横目に、手紙のやり取りを続ける。

   ×   ×

 福岡県南部の小学校。松京介先生が受け持つ6年生のクラスも「学級崩壊」に直面している。

 「勉強の楽しさを分かってほしい。なんとか授業をやりたいのですが。言うことを聞かない子どもを、どう引っ張っていけばいいのか…」。松先生は一語一語を選ぶように話す。

 宿題を出しても、ろくにやってこない。忘れ物はし放題。授業中にトランプで遊んだり、席を離れて教室の後ろでサッカーを始めたりする子もいる。注意しても耳は貸してくれない。

 松先生は教師歴十数年。6年生の担任は、これまで何度も経験した。だが、学級崩壊に直面したのは、これが初めてだ。

 「どうしてこうなってしまったのか。原因が分からない。とにかく、今までのやり方が通用しないということだけは分かった」

   ×   ×

 教育現場で「学級崩壊」という言葉が使われ始めたのは、ここ4、5年のこと。

 騒がしい子、乱暴な子、ちょっとした問題のある子どもは、昔からどのクラスにもいた。だが「今の状況は、その問題児にクラス全体が同調する新しい現象」(あるベテラン教師)なのだという。

 松先生も、そんな話を聞いたことはあった。「でも、まさか自分のクラスで起こるとは…」。

 相談した校長や教頭からは「もっと、き然とした態度で臨むべきだ」とアドバイスされた。

 自分も「虚勢を張ってでも、言うべきことは言わなければ、けじめがつかない」との思いはある。

 一方で「どうすべきか悩んでいる自信のなさを、子どもたちに見透かされているのかもしれない」とも思う。「それなら、いっそのこと苦しんでいる自分の姿をさらけ出して、一緒に考えていくことも必要なのではないだろうか…」。

 あれこれ考えるうち、6年生の子どもたちには卒業が近づいた。残された小学校生活は、たったの3カ月。

 「頑張るしかない。これしか言えません」。子どもたちの冷めた視線の中で、もがき苦しんでいる。

   ◇   ◇

 学級崩壊。授業中に子どもたちが騒ぎ、授業が成り立たない-小学校で、こんな状態の学級が増えているという。「静かに授業を受ける」「先生の言うことをきく」「クラスメートと協力する」…。当たり前とされてきたルールが無視され、学級の秩序ががらがらと音を立てて崩れている。先生と子どもたちの間に、いったい何が起こっているのか。学校現場を歩いてみる。(文中仮名)

   ◇   ◇

 ◆1990年代後半から問題になった「学級崩壊」。あれから20年余り、教育現場はどう変わったのか、変わっていないのか。当時の連載を読み返し、教育の今を考えるヒントにしてみませんか。

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