煙たがられる「麦わら焼き」通行に支障…トラブルの火種【動画】

 福岡県内有数の麦産地の糸島市では、5月下旬から6月中旬にかけて、収穫後の「麦わら焼き」であちこちの畑から煙が立ち上る光景を目にする。西日本新聞「あなたの特命取材班」に「煙とすすで洗濯物も外に干せないし、窓を開けることもできない」という憤りの声が届いた。豊かな実りの後の「風物詩」との見方もあるようだが…。

 梅雨の晴れ間が続いた今月上旬、同市志摩御床の麦畑で、わらに火を放つ営農者の姿があった。上空の煙は数キロ離れた場所からも目視可能で、車で現場に出向くことができた。火が走った後の表土は黒い燃えがらで覆われ、燃え残りはごくわずか。

 「焼くと、わらのかさが減って後の作業が楽になる」。約30ヘクタールで大麦と小麦を栽培する70代の男性はこう話した。北部九州の麦の作付けはコメとの二毛作がほとんど。麦の収穫後、6月中に始まる田植えに向け、収穫残さのわらを急いで処理する必要があるのだ。

 わらは焼却のほか、耕して土壌に混ぜ込む「すき込み」、家畜飼料や敷料としての活用などで処理される。営農者の男性は「すき込みは、わら焼きに比べて作業量が3倍。人手と時間が限られる中で難しい」。すき込みが十分でないと田植え時にわらが浮いて困るといい、JA糸島によると、麦耕作地(約千ヘクタール)の4割ほどで、効率を優先する形でわらを燃やしているという。

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 野外で廃棄物を焼却する行為は廃棄物処理法で原則禁止されているが、焼き畑は災害時の応急対応や正月のどんと焼きなどと同様、「焼却禁止の例外」扱い。糸島市消防本部は、市条例で事前の届け出を規定するが、「第三者から119番があった場合に、火災か焼き畑かを判断するための取り決め」であって、許認可の手続きではないと説明する。

 とはいえ、麦や稲のわらを焼く作業は、煙による通行への支障、洗濯物へのすすの影響、地域住民の健康被害への懸念といったデメリットも大きい。特に宅地と農地の混在地域では、かねてから農家側に苦情が寄せられている。

 延焼による火災の恐れもある。糸島市消防本部によると、5月下旬にはトラック数台が被害を受ける火災が発生。JA糸島は「近くで麦わら焼きが行われていた」として、火を放った後に現場から離れないことなどを生産者に注意喚起した。

 「風の強い日の麦わら焼きは避け、風向きなど周辺への影響を考慮する」という生産者らの申し合わせがあっても、農繁期に雨が続くと作業日が限定されるために徹底されていない側面もあるとみられる。

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 多くの自治体や農協は「環境に優しい農業」として、すき込みを推奨する。麦わらはチッソ、リン酸などの有機物が豊富に含まれ、すき込むことによって“地力”が向上するという。

 「脱麦わら焼き」を目指す佐賀県では自治体とJA、生産者が連携して対応。作付けが多い自治体の大半で、わら焼きをしない生産者に10アール当たり平均1500円の交付金を用意し、すき込みの講習会も企画する。1995年の麦わら焼却率は70・4%だったが、2010年は24・3%、20年には9・6%まで減少した。

 県内トップの麦生産地の柳川市も19年度から、佐賀同様に10アール当たり千円の交付金を支給。久留米市も本年度から、JAくるめの圏域(旧久留米市域)で同じ事業を始めた。

 糸島市は「行政として麦わら焼きの実態を把握していない」(農業振興課)のが実情で、脱麦わら焼きの政策的な優先順位は高くないようだ。ただ、「移住・定住の推進」に力を入れる糸島では、耕作地近くで宅地開発が進む地域もある。トラブル増加も予想され、課題を共有する関係者の議論は必要だろう。佐賀県の担当者は「環境に配慮しないと農業も生き残れない」と話した。 (竹森太一)

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