「善意の救助が…不幸な事故死」大崎事件証人尋問、鑑定の医師が会見

 鹿児島県で1979年に男性の遺体が見つかった大崎事件を巡り、殺人罪などで服役した原口アヤ子さん(93)が裁判のやり直しを求める第4次再審請求で、弁護、検察側双方の証人尋問が9、10両日、鹿児島地裁であった。弁護側の救急医は「再現実験の結果、被害者が死に至る経過や死亡時期が分かった。被害者は(確定判決が示す窒息死ではなく)側溝転落による事故死だった」と主張した。記者会見した弁護団は「大崎事件の幾つかの疑問点が矛盾なく説明できた」と語った。

 アヤ子さんの義弟(被害者)は79年10月12日夕、酒に酔って自宅から約1キロの道路側溝に転落。隣人2人が軽トラックの荷台に乗せて自宅に連れ帰った。その後、アヤ子さんと夫らが被害者を殺害し遺体を自宅牛小屋に埋めたと、確定判決は認定した。

 一方、弁護側は「被害者は殺されたのではなく事故死だった」と主張。裏付けとなる新証拠として、埼玉医科大高度救命救急センター長の澤野誠医師による医学鑑定書を提出した。その信用性を地裁が判断する上で、尋問は最大のヤマ場と位置付けられた。

 澤野医師は鑑定で弁護団による再現実験に触れ、「不適切な救護が被害者に与えたダメージが想定以上だと分かった」と強調した。昨年10月の実験では、側溝脇に倒れた被害者役のスタントマンを隣人役が軽トラの荷台に乗せる救護状況を、事件当時の隣人供述に基づき忠実に再現し、証拠として動画に収めた。

 澤野医師の鑑定によると、被害者の首には、頸椎(けいつい)(首の骨)を支える前縦靱帯(ぜんじゅうじんたい)の破断を示す内出血があった。死亡に至る流れはこうだ。(1)被害者は顔から側溝に落ち頸髄(けいずい)(首の神経)を損傷。同時に靱帯が破断し頭がぐらぐらに(2)この状態の被害者を隣人2人が「頸椎保護」をせず、寝た状態から起こし抱えて荷台に放り込むように乗せた(3)この救護行為で頸髄の損傷が一気に悪化。数分以内に呼吸停止した可能性が極めて高い-。

 澤野医師は鑑定で「救護に伴い不安定な被害者の首に、通常の限度を超えた後屈やねじれが何度も生じ、頸髄損傷が致命的になった」とした。頸部損傷の傷病者には頭と首を固定する頸椎保護が必要だが、記者会見で「その知識がない彼らが、2人だけで安全に救護することはどうやっても不可能だった。善意で救助に行った2人にとっても不幸な事故だった」と述べた。

 証人尋問は非公開。弁護団によると、検察側証人の法医学者は「首の前面に出血があっても頸髄損傷が確実とは言えない」などと述べ、澤野医師の鑑定の信用性を否定したという。

 双方の証人が今後、補充意見書を提出。9月9日に次回進行協議を開く。弁護団の鴨志田祐美弁護士は「第3次再審で再審請求を退けた最高裁に萎縮せずに、地裁がきちんと審理をして答えを出そうとしていることは、私たちの希望だ。遅くとも年度内には開始決定をもらいたい」と言葉に力を込めた。

(編集委員・中島邦之、片岡寛)

 さわの・まこと 東京大医学部を卒業後、東京都立墨東病院などに外科医(消化器、外傷)、救急医として勤務。現在、埼玉医科大総合医療センター高度救命救急センター長・教授。日本救急医学会指導医、埼玉県救急救命士養成所専任教員。60歳。

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