【高畑勲 創造の足跡㊥】ロケハンで「日常」にリアリティー

アルプスの少女ハイジ(1974年)

 東映動画を辞めた高畑勲は一時期、テレビに主戦場を移す。ズイヨー映像の打診を受け、高畑は「アルプスの少女ハイジ」の制作に乗り出した。しかしその頃の子ども向けテレビまんが(このころはそう呼ばれていた)といえば、スポーツものにヒーローものが主流である。村の日常生活を細やかに描いた「ハイジ」は、実はそれだけで十分に過激で画期的だった。だがそれを徹底しようとすれば、たとえ子ども向けの内容であっても、リアリティーあふれる描写が不可欠だ。

 そこにこだわった高畑は、当時としては画期的な現地ロケハンを行った。宮崎駿、小田部羊一らとともに実際にスイス、ドイツを旅行し、風景や生活習慣を取材。何げない食事風景や動植物の描出、高原で遊ぶハイジとペーターなど、そうした「日常」の描写にリアリティーを与えたのがこのロケハンだった。

 ストーリー構成では、ヨハンナ・シュピリの原作を熟知していた高畑は、その内容を大幅に脚色。映像としての完成度が高まるように原作の宗教色を除去し、登場人物の性格や行動にも変更を加えた。

 テレビまんがは週1回の放送が原則なので、劇場用アニメーションほどの手間はかけられない。しかし場面設定・画面構成という役職で参加した宮崎は、絵コンテのコマから情報を読み取り、それを作画担当に指示する膨大な量の「レイアウト」を1人で描き、作画のクオリティーを維持した。演出意図を効率的に作画に生かすことのできるこのシステムは高畑が編み出したもので、のちのアニメーション制作現場に大きな影響を与えた。

 展覧会では、宮崎が描いたレイアウトや修正した絵コンテを多数展示している。また、ハイジがそれまでの厚着を脱ぎ捨てて走りだし、自然の中で心を解放する第1話の抜粋映像も、動画、絵コンテとともに必見だ。

 (山口洋三・福岡市美術館学芸係長)

 高畑勲展 7月18日(日)まで。観覧料は一般1500円、高大生1000円、小中学生600円。問い合わせは、西日本新聞イベントサービス=092(711)5491(平日午前9時半~午後5時半)。緊急事態宣言の間は、高畑勲展以外の館内施設は閉鎖中。

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